太陽が地の底から顔を出して、周囲が明るくなった頃には我輩は自然と目が醒めている。弓のようにぐーっと反らしながらまだ寝ぼけている体を目覚めさせるのも最近の日課である。
我輩は家の者に気付かれぬようにして我が家から外へと出ると、そこには朝日に燦燦と輝いている朝顔の葉っぱが目に飛び込んでくる。朝顔の蔓は天へと向かって果てしない挑戦を続け、花は数日後には散っていく命ながら自分を体全体で華々しく表現する。我輩はその姿は勿論のことながら、その香りを鼻で堪能する。これがなかなか芳しいもので、数寄者にしかわからぬ香りなのである。
我が家の朝顔を堪能した後には、日課となっている朝の散歩に出かける。普段のようにやかましい雰囲気は朝の内は全くなく、まるで我輩がこの国の王様の如く歩けるので、特に気に入っているのである。と、そこへ我輩の友達である玉さんが向こうから現れたのである。玉さんは我輩より一つ下なのだが、もう立派な育児ママなのである。
「やぁ、玉さん。ご機嫌いかがですか?」
「いやー、最近は夏バテからか少し疲れていますよ〜。なんせ子どもが多い家ですから、食事だけでも大変で大変で……」
柔らかな日差しの下、我輩達はついつい長話をしてしまい、終わった頃には既に陽も高く昇ってしまっていた。我輩は玉さんに軽い会釈をしてその場を後にしたのである。
なにぶんこの時期は太陽が昇ってからしばらくすると足元が焼けるように熱い上に、時間を追う毎に気温がグングン上昇するため、散歩は涼しい時間に終えておきたいものなのである。故に、普段より少し早く散歩コースを進むことにしたのである。
我輩はいつものコースを順調にこなしていたが、ここで最悪のアクシデントが待ち構えていたのである。近所で最も凶暴な源さんが我輩の前に立ちはだかったのである。我輩もそこそこ力には自信があるのだが、この源さん相手には敵わないのである。挙げ句寝起きで機嫌が悪い源さんは、低い唸りをあげて我輩を狙っている目をしている。幸いにも我輩は源さんより高い場所におり、源さんは高い場所には上れないため、我輩は大急ぎで逃げることにした。
ようやく我が家の裏側に到着して、ご主人様がいる庭へと飛び降りると、朝餉が置かれていた。我輩は器に盛られている朝餉を瞬く間に完食すると、お気に入りの縁側にて寝転がった。
……え?我輩の様子が変だ?当然である。我輩は猫である。毎日が夏休みである。
BACK TOP NEXT