メッセンジャー“伝心”(戦場のギタリスト作) 「転校した!?」 俺が彼女の突然な転校を友人から知らされたのは中学の時だった。 「じゅ、住所は分かるか?」 「さぁ、女子に訊けば?」 俺は必死で手当たり次第の情報を尋ね回った。 しかし、分かったのは不動産で聴いた住所だけだった。 無理も無い。詳しい報告もなしにいきなり飛び出してしまったのだ。 でも、それは俺への心遣いだったのかもしれない。 俺に転校のことを話せばきっと俺がうなだれると思ったに違いない。           俺はある決意をした 彼女の引越し先は大宮。県内といえどとてもこんな町から簡単に行ける所では無い。 タクシーや電車賃はないし、親だって「諦めなさい」と言うはずだ。 選択肢は一つ。自転車だ。 無謀だと思われるかもしれないが、これしか手段は無い。 俺は親の留守を狙ってぱったりと家を飛び出した。 どれくらい走ったか。 何しろ自転車であるから、2日走ってもまだ隣郡の市内である。 とりあえずありったけの小遣いと食料をかっぱらってきたから食事には困りそうに無い。 3日目 やっと県中央。でも大宮は東京の隣、東南部だから先が長い。 宿先は公園で寝ていて、心地が悪い。 4日目 まだ県中央に留まっていた。足が激しく痛む。 がんばれ・・・俺・・・ 5日目 気がついたら草原で寝ていた。 市街地に出て現在地と地図を確認した。 ここは中央南部、なんとか抜けそうだ。 6日目 自転車が遂に壊れた。無理も無い、連日の急な走行が車体疲労を起こしたのだろう。 しかしここで終わるわけにはいかない。なにしろここは埼玉のど真ん中、助けてくれる人など誰もいまい。 走るしかない。 7日目 足がむくみ、激痛が走る。すでに足は筋肉痛を起こしていた。 足首ははずれるような違和感、急振動する左胸・・・ しかしここはもう東部に入っていた。あと少し、あと少しだ・・・ 8日目 もうすぐさいたま市に入り、大宮地区にも入るがここは県庁所在地。 最近他の市と合併を次々と起こし、できたのがさいたま市であるからとにかく広い。 大丈夫なのだろうか・・・足はとっくに限界を越しておりもはや体は発熱機械。 超発汗など日常茶飯事で、体がいかれる程の疲労が・・・ 9日目 大宮市内に入ったがもうほぼ倒れこんでいた。 頭では「まだ行け!」という指令が出ているが、 体は言う事を聞かない。意識は朦朧としていて、このまま終わってしまうのか・・・。 10日目 その家に着いた。 死ぬほどの疲労の中にかすかな達成感。 「ピンポーン」 普通なら鳴らすはずのチャイムは鳴らさなかった。 彼女は二階にいた。窓から見える。 「XXXXX!」 俺は叫んだ。 彼女は気づいたようだ。かなり驚きながら そして窓を開けた。 「俺達は―――」 途切れた。 「俺達は、離れてても心はずっと一緒だ!」 区内全土に広まるほど大声で叫んだ。 その時、俺達の眼に大粒の雨が降った。 心が一つになった瞬間だった―――――