大花火 作:魁斗 伝説、それは今まで色々な人に作られてきた。そして色々な人が破ってきた。 オールスターでの9連続三振、3打席連続ホームラン、シリーズ通算55本塁打・・・。 手元の辞書を見てみると、神話、と書いてあった。確かにそういう人もいる。 とはいえ、実際は伝説の基準はあいまいだ。 しかし、オレはこう提言したい。伝説とは、人によって作られたもので、それは誰も破れない記録、もしくは人を感動、または魅了させるもの、と。 そして、この話は、ある伝説を作った男の話。 ジャイアンツ、言わずと知れた最強チーム。今どうかは分からないが…。 しかし、その影には、2軍の選手が隠れていることを知っているだろうか? そう、1軍には上がれず、誰にも認められず、隠された才能を持ちながらその才能を誰も引き出せず、それでもただただ、自分の野球をやっている連中がいることを。 そしてここにも一人。その名を佐村人魅、という。ヒトミ、と呼ばれているがれっきとした男だ。 甲子園優勝も経験してる。予選での打率は1割に満たなかったのに、甲子園で彼は変わった。 甲子園に巣食うという魔物が取り付いたのか、そこでの5試合で、5割2分、17打点、そして8発ものホームランを打った。 そのホームランはあまりにも華麗で、花火を打ち上げるようだった。 しかし、プロに入ってからというものの、まったくといってもいいほど打てなかった。 開幕スタメンだったのに、3試合ノーヒット。打順を下げたはいいものの、まだ打てない。 ついにはスタメンからおろされた。 しかし、それから3試合目、甲子園での阪神戦華麗な代打ホームランを打った。 しかし、その後はやはり調子が伸びず、結局5月になるのと同時に2軍に落とされ、それ以来こうしていた。 試合後のロッカールーム。 「よお、ヒトミ。お疲れさん。」 「ああ、お疲れ。いいなあ、お前は、活躍できて。」 ヒトミと話しているこの男は理崎将。課題のスタミナ不足はともかく、先週2軍相手だが完全試合をしてしまった。 一軍の投手力不足からも一軍監督堀内から注目されていた。 二人は同い年ということもあり仲が良かった。 「明日あたりから1軍かな?」 「まさか・・・!まだだろ。」 「いや・・・。ほらコーチがきたぜ?。」 そう言ったヒトミの目線の先には確かに2軍コーチがいた。 「将、明日から1軍だ。頼むぞ。」 一言言うとコーチはロッカーを出て行く。そして将は一言呟く。 「うそ・・・!」 「ほらな、長くいると分かるんだよ。がんばれよ。」 「ああ、お前もな・・・。」 夢見心地で言っている将はヒトミの事も気にすることが出来ないようだった。 それでも、ああ、と言って、ヒトミはロッカールームを出ていった。 (しかし。このままじゃあ今年でクビだな。どうしたものか・・・) そう考えながらある飲み屋の戸を開けた。 「よお、金太。来たぜ。」 金太とは、ヒトミの旧友だった。 で、と席につきながら言う。 「いつもみたいに昔話か?甲子園のときの・・・。」 「まあ待てよ。もうすぐくるから。」 そう言って腕時計にチラッと目をやる。 「誰かくんのか?」 「ああ、びっくりするぜ。なんたってあの人は・・・。」 そのとき、店の戸が開いた。そして一人の男が入ってきた。客は騒然とした。 「何であの人が?」「試合どうしたねん。」色々な声が混ざり合う。 見たところ50前後の男。でも確かに見覚えはあった。 その男を金太が迎えに行った。 「ありがとうございます、こんなところまで。岡田監督。」 「あっ!」 ようやくヒトミも思い出した。岡田監督、つまり阪神タイガースの監督である。 たかってくるファンを適当に言いくるめながら、ヒトミの席に向かってきた。 「よろしくな、佐村君。」 「あ、いえ。こちらこそ。」 「で、早速なんだけど、お前は甲子園に強いんだよ、ヒトミ。分かるか?」 ああ、といいながら考える。いつも言われる。けど、今から高校生に戻るのは無理だろ?そう考えながら気づいた。 あっとまた声をあげそうになった。 「気づいたか。阪神に行けばお前の強い甲子園がシリーズ通じて70試合ある。その間活躍できるんだよ。」 「じゃあ、まさか・・・!」 「来て欲しいんや。わが阪神タイガースに。どや?」 「・・・。」 良いのか?こんなに簡単に巨人を捨てて・・・。でも・・・。 「じゃあ、今年のオフクビになったら。自由契約選手になったら、お願いします。」 ヒトミはそれを覚悟していたからこそ悩んでいたのだ。そしてその後の道が決まる。  「よっしゃ、良く言うた。よろしく頼むで、佐村君。」 このとき、ヒトミは巨人に別れを告げた。阪神の一員となったのだ。 2月2日、阪神はキャンプインした。 よろしく、とヒトミは皆に声をかけてみたが、皆小さな声でそっけなく返してくるだけだった。 あきらかに万年二軍だったヒトミを歓迎していなかった。 キャンプ中、ヒトミはほとんど打撃練習をしなかった。しかし、雑用は自分から率先してやった。 ヒトミは、野球で一番大事なことを知っていた。 いつのまにか、ヒトミはチームのムードメーカーになっていた。しかし、まだファンは認めていなかった。 そして、オープン戦。ヒトミはやはりあまり試合に出なかった。しかし、甲子園での5試合は、すべてに出た。 そして、すべての試合でホームランを打った。 結局その5試合以外は、試合に出なかったが、その後試合で8割2分、11打点、6ホーマーの大活躍だった。 そして、派手な選手は好きな阪神ファンは、いつのまにかヒトミを応援していた。 そして、ペナントが開幕した。開幕戦、ヒトミは5番ファーストで試合に出た。 そして、2本のホームランを打ち、チームの勝利に貢献した。ヒトミは華麗に復活した。 甲子園のみでの活躍。ほかの球場での試合は頑として出なかった。それでも、四月を終わった時点で15本もホームランを打っていた。 こちらは、巨人。里崎将、この名を覚えているだろうか?そう、ヒトミの親友だった男だ。 彼は一軍に上がって以来、大活躍だった。ただ、スタミナ不足もあり、5、6イニングでの交代は避けられなかったが、抑えや中継ぎには頑として回らなかった。いくら中5日でも。 しかし、こいつもすごい記録を作っていた。56イニング無失点。記録に近づいてくる。 そして、6月も後半に近づき、オールスターの出場選手が選ばれた。二人はそれぞれ、なんと150万票の大台に乗り、選ばれた。 そして、ヒトミは二試合目の甲子園でしか出ないと言いきった。 「お、来た来た。花火師が・・・!」 「茶化すなよ、将!お前すげーな、99イニング無失点とは。」 「お前もな。だって、甲子園だけで前半27本だろ?」 ふふ、と笑っていたが、だんだん我慢できなくなってきた。ついには大声で笑ってしまう。 「去年まで、2軍だったもんな・・・。」 「ホント、信じられねーよ。」 「こうなったら二人でこの試合ジャックしちまうか!?俺は4打籍連続ホームランでもするぜ?」 「じゃあ、オレは・・・、9連続三振かな?」 また大声で笑いそうになったが、慌てておさえた。 「じゃあ、がんばりますか?」 しかしこの二人、本気でやってしまうからすごい。有言実行。二人そろってやっちまった。 そして、二人そろってMVPをとったのだった。 二人は約束した。自分たちの対決は伝説に残るものにしようと。 ジャイアンツと阪神は、ずっと首位を取り合った。引き離したらその分その後引き離す。もしくは毎日のように順位を入れ替えるか・・・。ともかく、すごい死闘だった。 9月にはいる前には他のチームの優勝はなくなっていた。 そのころだった。将は131イニング無失点を記録した次の日、10試合ほど投げず、最後の阪神戦、完封をすると。今まで、スタミナ不足から完封はなかった。もし、実現すれば、140イニング無失点の怪記録となる。そして140イニングと言う事は年間防御率0.00が公式記録となる。恐ろしい事だ。 そして、ヒトミもそれに平行して活躍した。ついに55本塁打を打ったのだ。そして打率は4.00いくかというところ。打点は140を既に超え、ほぼ一位が決まっている。 そして、最終戦が始まった。この試合、勝ったほうが優勝の、誰もが緊張の一戦だった。 初回、将は軽く三者凡退に切ってとった。そして、2回、先頭打者は、四番ヒトミ。 「よう、こんな試合になったなあ。本当に伝説になるな。」 「そうだな、お前の三振でな。」 「言うねえ。さあ来い!」 初球ストレート、空振り!でもスイングの音がスタンドまで聞こえるようだった。2球目、打った!しかし、大きくファールになった。そして3球目・・・! バシィ 158キロのその球はバットにカスリもしなかった。 「さーすが。でも、このままオレが終わると思うなよ?」 「ああ、残り二回の三振見せてもらうよ?」 「二回?」 そう聞き返しても将は不敵に笑うのみだった。 次の対決は、5回ノーアウトからだった。分かるだろうか。ここまで、将は完全試合で抑えているのだった。 「なるほど、それじゃあ後2回しか回らないか・・・。でもまあ、俺がその中でホームラン打てば関係ないっしょ?」 「・・・。まあ、無理だろ。行くぜ・・・!」 初球、カーブから入ってきた。 (バカが!逃げの姿勢なら、オレの勝ちだ!) カーン いい打球音だった。打球は右中間を抜けていくツーベースになった。 「な?完全試合は無理だろ?」 「・・・まあ、ね。」 7回、ツーアウトからヒトミに3回目の打席は回ってきた。しかしこの勝負のとき、巨人軍監督はサインを出した。 敬遠。この戦いに水をさそうというのか。これが勝負というものか。これが・・・。 泣く泣く将は敬遠した。それに対しヒトミは一球一球タイムをかけ、素振りをすることで無言の怒りを巨人というチームにぶつけた。それでもフォアボールが告げられたときは、静かに一塁に行った。一言、 「次は、勝負してくれ」 と寂しそうに言ったほかには。 しかし、そうはいっても巨人は試合を有利に進めていった。ヒットを毎回打つ。毎回のようにチャンスが生まれるのだった。 そのたび、投手を変えたり、ファインプレーに助けられたりして、どうにかこうにか阪神は守ってきた。しかし、8回、ツーアウトまでランナーが出ず、この回はいける、そう思ったときだった。8番の仁志が初球を思いっきり打った。そして、スタンドまで飛んでいったのだった。1点、この試合でそれは10点も、いや100点もの価値があった。 もう二人の対決は見れないのか・・・。ファンはプロというものに失望し始めていた。 9回、すでにツーアウトとなっていた。将はヒトミの一本以外ヒットは打たれていず、ヒトミ以外を出してもいなかった。 しかし、このとき突如としてコントロールを乱した。そう、自ら乱したのだ。すべてはヒトミとの勝負のため。 「わざとか、将。」 「・・・さあね。でも、そんなことはどうでも良いだろ?」 「ああ。今は、この緊張感を味わいたいだけだ。誰にも邪魔はさせない。」 そして一球目が投じられた。 ゴオオオォォ バシィ 9回にきて150キロが出た。 「余裕か?ヒトミ。」 「まさか・・・!少しでも長く緊張感を、この勝負をしていたいんだ。」 そして二球目。 カン 打球はポールわきに飛んでいった。入るか? ファール わずかに外れた。惜しいあたりだった。 そして、三球目。将はあらん限りの力を出した。ボールは命を持つように見えた。まるで猛獣のように、唸り声を上げているようだった。 しかし、ヒトミのバットもまた、猛獣のようにボールにくらいついていった。ボールとバットがぶつかったその瞬間、ほんの一瞬、二人には永遠に感じられた。二つは力と力をぶつけ合った。 そして、バットが勝った。ボールがはるか高くへ消えていくのを見た。 ボールはなかなか落ちてこなかった。 1分ほどして、審判はアウトを告げた。ボールが見つからないのは何らかの不正があったのだとして。 将は、悔やんでも悔やみきれないその勝負を思い出しにグランドに戻ってきた。 「結局、オレの完敗・・・か。」 「何言ってんだ?試合は勝っただろ?」 後ろから突然声が聞こえた。 「なかなか帰れなくてさ、戻ってきちまった。」 「・・・完敗だよ。甲子園の魔物はお前についたんだ。」 「・・・かもな。よっしゃ、飲みに行くか、優勝祝いだ、おごるぜ!」 「よっしゃー!」 ゴォ 将の耳に何か音がしたような気がした。 「え?」 振り向いた将にヒトミが問いかける。 「どうした?将。」 「いや、何でもない、気のせいみたいだ。」 そして2人は歩き出す・・・。 次の日の新聞は、巨人の優勝を大きく伝えた。 そしてその陰にある記事があった。隕石が、ある民家に落ちた、という話だ。 その隕石は、完全な球だった。しかし、摩擦でまわりは分からなくなっていた。 そしてその隕石につけられた名は Hitomi&sho's traditional game          ヒトミと将の伝説の勝負                              THE END