未来からの訪問者 作:Runeky 「未来からの訪問者 -The meaning of living-」 とある公園・・・。 天気は晴れ・・子供達が無邪気に砂場で遊んだり、遊具類で遊んだりしている。 ベンチに座っている一人の少年がいた。 彼の名前は樋口洋一と言う・・・現在高校1年生。 「・・・つまんねぇなぁ・・学校なんて・・」 呟きながら缶ジュースを喉に流し込む。 彼は不登校者であって、まともに学校へ行った試しがない。 中学校の時まではそうでもなかったのだが、高校へ進学した途端急に不登校になってしまった。 おそらく他の中学校から来る生徒達との交流がうまくいかなかったのだろう、そのつまらなさが嫌で学校へ行く気も失せるのだろう。 親もそのことは理解し、無理に学校へと行かさずにそっとしているが。それが彼にとっては都合のいいものだろう。 天気の良さに洋一は人の目も気にせずそのままベンチに寝転がる・・。 時折吹く風は木々のざわめきを奏でる・・・。それが実に心地いい音となって眠気を誘う。 洋一はゆっくり目を閉じると、しばしその音を楽しむ・・。 徐々にその音は遠ざかっていく・・・。 すると明らかに違う音がした。 ガサッ・・・ガサガサガサ!!!・・・ と、同時に腹部に鈍い痛み・・。 「ぐはっ!!!」 洋一が起き上がり腹部を押さえる・・何か落ちてきたのだろうか、そう思い辺りを見渡すと そこには頭を押さえてうずくまっている赤髪の少女がいた。 ・・・まさかな・・。 まさか木の上から女の子が落ちてくるワケがない・・。普通な事なら有り得ない。 するとその少女は立ち上がると洋一のほうを振り向く・・目が合った。 「今って西暦何年?」 開口一番にこの一言、洋一は謝ってくると思いきやいきなり西暦を聞かれてコケそうになる。 「はぁ?今は2003年だろ?」 「2003年かぁ・・ってことはちょうど40年前にやってきたってことなのね」 と、少女は一人納得したように言う。 ワケが分からない・・いきなり人の腹の上に落ちてきて、40年前にやってきたって。 ”コイツは頭がおかしいかもしれない・・・” 洋一は直感的に思った。 「今私のこと頭がおかしいって思ったでしょ?」 と、少女が聞いてきた・・・。思わず顔が歪む・・・。 「思った事が読める・・のか?」 「まあね、目を見たらそう思うよ」 と、言うと少女は洋一の隣に腰掛ける。 彼は彼女の顔を見る・・・年のほうは15,6ぐらいか・・・。 服装は黒のブラウスに黒の長パンツと言った方が正しいだろう。 「名前は?」 「・・・洋一、お前は?」 「私はマキって言うの、2043年からやってきました」 と、丁寧にマキはペコリと頭を下げる。 (バカバカしい・・・何で未来のヤツがこんなところに来るんだ?) 目を見たら思ってる事が分かってしまうので洋一は敢えて顔を逸らす。 「・・で、何で未来からここへ来たんだ?」 「うーんとね、時空旅行してるの」 (バカだ・・・こいつ本当にバカだ・・・) 喉の奥まで出かかったが、洋一は気にせずに話を続ける。 「時空旅行?」 「うん、いろいろな時代へ行ってそれを記録したりするのが好きなの」 「・・・あれ?お前学校とかに行ってないの?」 「・・・うん」 少し間を置いてマキは答えた。 「ふーん、そうかい。ま、せえぜえ2003年の世界を味わってくれよ」 洋一は立ち上がる・・こんなヤツは相手にしていたらバカバカしい・・そう思った。 するとマキは洋一の服の端を掴んだ。 「あのさ・・どっか寝れる場所とか無い?」 「はぁ?」 「ホント、寝るだけだからさ。そういう場所とか見つけてくれたらすっごい嬉しいんだけど」 「・・・・・」 しばらくマキの顔を見た。もしコイツを放って置いたら、周りの親子連れにはひどい男と思われるかもしれない。 かと言って自分の家に寝させるワケには絶対に行かない。 いや・・・あそこなら問題はなかろう。 「・・・本当に寝るだけの場所でいいのか?」 「うん!」 元気いっぱいな返事は洋一の心の中に後押しがついたのかもしれない。 すると洋一はうっすらと微笑んだ。 「じゃ、ついて来い!」 しばらく歩くと住宅街に入ってきた。 キョロキョロとマキは辺りを見渡す・・・。 「うっわー、40年後と全然違うわねぇ、家の作りとか・・すっごい軟弱そう・・」 「そんなに凄いのか?お前がいる時代は」 「まあね、家の作りとか物凄い頑丈よ」 「ふーん・・・」 しばらくすると空き地に着いた。 「ここでいいだろう、寝るだけなら充分だろ?」 「うんうん、全然文句無いよ。ありがとう洋一君」 ニッコリ笑って洋一に言うマキ。 この屈託無い笑顔は彼女の象徴なんだろうか・・。 するとマキはポケットから小さな箱を取り出す・・そして中から1円玉ぐらいのモノを取り出した。 で、それを地面に放り投げるとあっという間にテントが完成した。 その出来事に洋一は思わず驚愕した。 「ん、ありがとね。またどっかで会えたらいいのにね・・」 そう言うとマキはテントへと入っていった。 「・・・何てこった・・」 ちなみにこの空き地から洋一の家までは徒歩2分弱のところにある。 と言う事はマキにいつでも会いに行けるワケなんだが・・。 「あいつって不思議なヤツだよなぁ・・そりゃ未来から来たんだから当然なんだけどなぁ・・」 ただ彼に少しの変化が現れた。 高校へ進学して以来人との付き合いをほとんど遮断していた自分が今日女の子と話していたら 知らず知らずのうちにペラペラと話していた。 「・・・どうかしてるぜ・・」 洋一は頭を抱え込んだ。しばらくの沈黙の後、洋一の脳裏にマキの顔が思い浮かんだ。 「・・あいつ何してるんだろ?」 気づいた時は空き地のほうへ向かって行く自分。 空き地には相変わらずテントがあった。もうすっかり夜になっている。 腕時計を見なくても分かる。 するとテントが開いて中からマキが顔を覗かせた。 「あ!洋一君だ!どしたの?」 「・・んん?俺の家から近いんでね・・」 (何言ってんだオレ?) 「へぇ・・」 マキはジト目で洋一を見ると思いもよらぬことを口走った。 「・・んで襲いに来たワケ?」 「バッカ野郎!誰がそんなことを!!」 「顔赤いよ」 子供のような無邪気な笑顔でマキは言う。洋一はさらに顔を赤らめる。 別にそう思って来たワケでもない。まあいい、そんなことは。 「で、マキは飯食ったのか?」 「食べたよ、どっかのコンビニで何か買ってきて」 「・・お前未来から来てるんだろ?未来の金って現代に通用しないんじゃ・・」 「それはこっちに来る前に既に換金したから心配ないよ。それよりそんなとこじゃ何だから中に入っておいでよ。 何を言い出すのかこの娘は・・。出会って数時間しか経っていないのに、ここまでフレンドリーに接してくれるとは。 「べ・・別にいい、ただ無事に寝てるかどうかを・・」 「えー・・・なんでぇ・・?」 膨れっ面で拗ねるような視線で洋一を見るマキ。 この仕草に洋一はマズイと思い、素直に中へと入っていく。 中の様子は外見とは意外に広く、実に快適なものだった。 「・・さすが未来・・」 「これでも最小サイズのテントなの、大きいやつなんて・・・もう家一件分の大きさだもん」 そんなテントがあっていいのか・・。 「・・・すげぇな・・・ってマキお前の年はいくつだ?」 「16歳のプーちゃん」 「プーってお前・・俺は高校1年だけどな」 「じゃ私と同い年だ」 マキはニカッと笑う (これじゃあコイツの笑顔を見に来てるだけだな・・) 「ホント?そんなに笑ってる顔がいいの?」 あっさり思いを読まれていた洋一は照れ隠しに思わずこう言う。 「・・・悪いかよ」 この問いにマキは首を横に振った。 こうして二人は互いに話していく・・・。 すると徐々に洋一の心の中も変わっていき、自分が不登校をしている事に恥じらいを持って来た。 マキと話しているときが自分自身の素を出せるのか・・・ それが洋一にとっては嬉しい事極まりなかった。 だが・・その後空き地へ行ってみるとテントはなかった。 毎日毎日見に行ってもテントは無かった。 すると洋一の心境も徐々に変わってきた・・・。 それが1週間続いたある日の事だった。 洋一は河川敷の鉄橋下に座り込んでいた・・その右手には小型ナイフが・・。 「・・所詮生きていても仕方がないってことだな・・」 フッと自嘲したような笑みを浮かべると自分の脈にゆっくりナイフを当てた。 「この16年を後悔してるつもりはないな・・」 そう言うとゆっくり目を瞑り右手に力を込めた・・・ その時だった。 「こんなところで何をしてるの?」 聞き覚えのある声のほうを見ると、赤髪の少女が立っていた。 「自殺するの?じゃあしちゃえば?」 思いも寄らぬ事を言うマキ、これには洋一の心が揺さぶられた。 「私は目の前で人が死ぬトコ見てみたいしね・・まあ、死ぬ前に私の戯言を聞いてくれるかな?」 そう言いマキはゆっくり洋一の隣に腰を下ろす。そして腕をまくると自分の腕を見せる。 「今から腕を曲げるからよく聞いててね」 マキは腕を曲げ始めた・・・何度も何度も腕を曲げる。 洋一は言われたとおりに耳を澄ましてその腕を聞いてみる・・・。すると・・。 ・・キィ・・キィ・・ 明らかに関節とは違う音がする。 「・・・あれ?」 「音・・・違うよね?」 洋一は首を縦に振る。 「・・中学1年の時だったの・・」 遠い目をしてマキはぽつりぽつりと話し始めた。 彼女の家の先祖は武士だったために、家柄はよかった。当然昔ながらのモノも置いてあった。 中学1年生の夏休み、彼女は家の手伝いで旧式の芝刈り機を使って庭の草刈をしていた。 と、汗で手が滑ったのか、思わぬ事故を起こしてしまった。 彼女が気づいた時は、病院のベッドの上で自分の四肢の感覚は無くなっていた。 この状態で命を取り留めたことは奇跡だったが彼女にとって衝撃は大きかった。 自分の手足が無くなってしまった以上生きていく気が無くなった・・・。どうでもよくなった。 毎晩毎晩病室のベッドで泣き続けた。 だがある日、彼女を担当した医師は彼女にこう告げた。 「・・君はまだ若い・・両腕両足を事故で無くなってしまったことは痛々しい・・。だけど君にチャンスを与えよう 君の両腕と両足は既に腐敗して接合不可能になってしまったが・・・、その腕に金属の関節や骨と人工血管と筋肉をつけて その上に人工皮膚をつけて両腕と両足をもう一度取り戻してみてはどうだろうか?」 「・・・ってことは体と顔以外は全て作り物になるってことですね?」 「まあ率直に言えばそうなのだが・・・その人工皮膚は最近学会で発表されたもので、神経が完全に通っているものだ・・」 「・・・・?」 「つまり自分のぬくもりを再び肌で感じられるワケだ」 「自分の腕を・・もう一度取り戻す・・・」 「君のご両親には先ほど承諾を得てきたよ・・・”娘の将来のためなら”って・・あとは君の決意だが・・」 もうこれを逃してしまっては一生不自由な生活が待っている。失った一部を取り戻す為には手術を受けるしかない。 「・・お願いします・・もう一度歩きたいし物を掴みたいです・・」 こうしてマキは再び両腕と両足を得る事が出来た・・。 だが、最初は言う事を聞いてくれるはずがなかったが、長いリハビリを乗り越え完全に自分の腕と脚に戻したのに 2年もかかってしまった。 つまり中学校生活を棒に振ってしまったワケだ。 「・・と、言うワケなのよ」 「・・・その脚もか?」 「太ももから下は全部人工皮膚ってやつ」 長パンツの裾をあげて、その脚を見せる。 見た目は本当に本来のものとは全く変わらない・・・だが、中身は全くの別物である。 「自分の将来のために・・・私は失ったものを全て人工的に補った・・・。どんなにハンデがあったって 何一つ変わる事はないよ、見た目だけはね。だけどのこの中は全て金属の関節と骨・・そして人工血管と筋肉と皮膚」 一通り話を終えたマキはまくっていた袖と裾を戻す。 彼女には彼女なりの辛い過去があった、だが洋一にはそういう過去はあったのか? あるはずもない、何の不自由も無く過ごしてきた中学時代・・・。 そして高校へ進学して周りに馴染めずに引きこもる・・・これでは単なる逃避者だ。 すなわち自分で理不尽な理由で殻に閉じこもって挙句の果てには死に追い込んでるだけ・・。 「だからね・・」 マキはそっと洋一の顔を胸に押さえ込む・・・洋一は為すがままにされるだけ。 右手からはナイフがカランと音を立てて落ちていく・・。 「洋一君も生き抜くのよ・・自分の命を無駄にするもんじゃない・・それを断った先に何があるの? 何にもありゃしない無の世界のみ・・」 確かにマキの胸からは生きていることを証明する鼓動が聞こえる。 生きている限りこの音は聞こえる・・、そしてこの音が聞こえなくなった時初めて天へ召されていくのだ。 それはいつになるのか分からない、それだけは運命なのだから・・・。 そっとマキは洋一を話すとさらに洋一の目を見つめた。 「・・・高校を卒業して大学へ進学した後、社会人へなったら教師になれば洋一君は幸せな状態が続く」 まるで彼の将来が手にとって分かるようにマキは話した。その表情はえらく真剣な表情だった。 「教師に・・か?」 「うん・・人のためになればなるほど、自信が湧いてくるってとこかな・・さてと」 いつもの表情に戻ってマキは立ち上がると腕時計をカチカチといじる・・。 すると目の前に大きく切り開かれた穴が出てきた。 「そんじゃ、私は帰るけど・・・この先自殺しようなんて思わないでよ」 「帰るって・・未来へか?」 「うん、もう私の目的は果たしたからね」 「・・目的?」 「私は時空間を旅して、私自身の透視能力を生かして死のうと思ってる人を正気に戻すのが仕事なの」 タイムトラベラーカウンセリングと言っていいのか、マキにとってはこれは天職なのかもしれない・・。 あっけに取られた表情の洋一は慌ててポケットから何かを取り出した。 「これ・・・」 「ん?」 マキは手渡されたものを受け取る・・それは一枚の紙切れだった。 「ありがとね、帰ったら読むよ」 「ああ、こっちこそいろいろありがとうな」 答える代わりにマキはニコッと笑みを浮かべた・・。 「それじゃまた会おうね!40年後で!!」 そう言うとマキは穴へと入っていった・・・そして一瞬のうちにその穴は消えて行った。 しばらくその状態でいた洋一はぽつりと呟いた・・。 「サンキュー・・お前のおかげで立ち直れたよ」