久遠の夢 〜全日本編外伝〜(太作) ここは帝王実業。 そこに一人の投手がいた。名を「友沢 亮」。速いストレートと切れるスライダーを武器としていた。 しかし彼は怪我を負った。 彼は一人の投手に託した。 名は「久遠(くおん) ヒカル」。 友沢は決め球のスライダーを彼に徹底的に教えた。 そして久遠は彼を超えるスライダーを手にした。 足が速く守備も上手かった友沢は遊撃手となった。 しかし彼はケガのことを久遠に教えなかった。 「俺はもう投げない」そう残しただけだった。 久遠は言った。 「なぜ僕と戦ってくれないんです!あなたは勝負を逃げるんですか!」 友沢は「あのころの帝王にとって,俺は遊撃手,お前は投手となるのが最強のオーダーだった」とだけ言い残した。 彼の背中からは,心残りがあることを感じさせられた。 それから数年が経った。 猪狩ドームで,オリンピック日本代表が練習をしている。金メダルをかけたアメリカ戦を明日に控えている。そのため皆気合が入っている。そしてそこには,あの二人がいた。 久遠はまだあのことが気になっていた。 (僕はあの人がメンバーだったから代表を引き受けた。いつかきっと,辞めた理由を聞くんだ!) そう思いながら一生懸命に投げ込んでいた。 いや,なりすぎていた。 「久遠,危ない!」 「え?」 ゴッ ボールが当たった。 頭を直撃。 「なぜ!なぜ教えてくれないんです!」 「俺はもう投げない。ただぞれだけだ。」 「どうして!聞かせてください!」 夢を見ていた。 あのときの夢を。 ガバッ! 「ここは・・・?」 「病院さ。きみの頭にボールが当たってそのまま気絶したからね。」 彼は小波。初日に出会って意気投合した久遠の友達。 このことがあってからこの二人は親友となる。 ただこれは本題じゃない。 そのあとが本題だ。 久遠のなかで何かが吹っ切れた。 決心した久遠は友沢のところへ向かった。 「友沢さん!」 「久遠!もう大丈夫なのか?」 「そんなことどうでも良い。あなたが投 「わかっている。」 言い切らないうちに友沢は始めた。 「おそらくこのタイミングを逃したらもう言えないだろうからな。 アメリカ戦が終わったら忙しくなる。話してやろう。俺は・・・」 一呼吸置いてから言った。 「怪我したんだ。」 呆然とする久遠。 無理もない。 教えられていたころ,そんなところは微塵も感じさせなかった。 「ひじに爆弾を抱えてしまった。手術で何とかなったものの,遊撃手になってしまってから時間がたってしまった。だからお前にすべて託した。」 「ゲームセット!猪狩・久遠の二枚看板でカイザース優勝!今日の勝利投手久遠,友沢選手と抱き合って喜んでいます!」 その後二人はカイザースに入団,優勝の立役者となる。 久遠には夢がある。 「いつか友沢に認められ,投手時代の友沢を超える」という夢が。 そのためだろうか。 今も友沢は,久遠だけの投手コーチだ。