約 束(阿 八月一日作) 約束があった。 大事な人との。 永遠の思い出になると思っていた。 きらきらとした星の海が目に映ったとき ふたたびあの歌が聴こえた気がした。 2092年2月6日、日本の最先端技術を集結した宇宙開発機関、国立宇宙管制センターは同日午前9時、国産宇宙ロケット『大和号』を発射。 湧き上がる歓声の中、突如ロケットは爆発炎上。 宇宙管制センターはロケット停止装置を押すが作動せず、ロケットはそのまま大破し四散した。 この事故で日本は事業にかけた膨大な額の資金と有能な宇宙飛行士8人を失った。 そして、 大和号に搭乗していた青年宇宙飛行士・佐野雪彦は25歳という短い生涯を終えようとしていた・・・。 痛い。 痛い、痛い、痛い・・・。 体中が痛い。 すでに指一本動かすこともできなかった。 全身からだらだらと血が出ていて、白い宇宙服を真っ赤に染めていた。 「・・・っ・・・っ・・・」 どうにも声が出ない。 ・・・のどをやられたらしい。 先ほどから耳に入るのは非常警報装置のアラート音。 視界に入るのは爆発によって起きた火災の炎、ロケット内部の残骸、そしてほんの数分前に宇宙へ行くことへの誇りを語り、大観衆の中、勇ましくロケットへ搭乗した仲間たちの動かぬ死体・・・。 「ぼ・・・く・・・は・・・」 かすれた声でつぶやいた。 「・・・死ぬのかな・・・?」 「・・・う・・・ぅぅ・・・」 だんだん、視界が白くなってきた。 そうか、これが死か・・・。 神様も、ひどいな・・・。 まだ25なのに。もっといろんなこと、すれば良かった。 あんまり遊んでないし、お酒もあまり飲んでない。おいしいものも食べてないし・・・。 ふと、両親の顔が頭をよぎった。 「父・・さ・・ん・・・母・・・さ・・ん・・・」 宇宙飛行士を目指すことを一番反対した父さん。ごめんね、わからず屋の息子で。 でもね、見て見たかったんです。ガガーリンが、アームストロング船長が、毛利さんが、幾多の宇宙飛行士が見た宇宙を、青い青い地球を。 「さようなら・・・・」 どうか病気に気をつけて母さんと一緒に僕の分まで長生きしてください。 別れの言葉を口にした瞬間、急激に眠くなった。 ・・・約・・・束・・・よ・・・。 「・・・あ・・・」 薄れゆく意識の中、僕は思い出した。 耳にはあの歌のフレーズが聴こえた。 「約・・・束・・・」 僕には、ひとつの約束があったのだ・・・。 青年は1つの記憶に思いを馳せていた。 それは、大和号打ち上げのほんの数日前・・・ 「ほら、ルイ、見て。」 「わあ、大きい・・・!」 「あれが僕の乗る大和号さ。」 夕日に染まる大和号を小高い丘から彼女と眺めた。 彼女の名前は篠宮ルイ。 小学校の教師になることが夢だと語った僕の・・・彼女。 学生の頃からのつきあいで、僕の良き理解者だった。 「なあ、ルイ・・・」 「なに・・・?」 少しためらったが、言おうと思った。 「この、宇宙探査が終わって・・・無事に帰ってこれたら・・・。」 胸がドキドキした。 「これたら?」 「・・・・・いや、やっぱりいい!!帰ってきたら言うよ・・・。」 「なに?気になる!!」 「帰ってくるまでの秘密!」 「ケチ!!」 ・・・・・言えるわけないよな・・・・・ ・・・・・結婚しよう・・・なんて・・・。 そのときは、また言えると思っていた。 ほんの少しの勇気があれば言えたことだったのに。 もう、夕日が沈みかけていた。 ラ・・・ラ・・・ラ・・ 彼女が透きとおるような歌声で歌った。 僕と彼女の一番好きな歌を。 そのときの彼女は、夕日の中で歌う歌姫のようだった。 一曲歌い終えたあと、彼女が言った。 「・・・・ねえ」 「なに・・・?」 「無事に戻ってきてね・・・。」 「え・・・?」 「絶対に帰ってきて、話の続き、聞かせて・・・。」 「・・・・・・・うん。」 「約束よ。」 「わかった。」 彼女は優しく微笑んだ。 薄れゆく視界に満天の星空が映った。 改めて綺麗だと思った。 彼女も何処かで同じ星空を見ているのだろうか。 そうしているのならそれはそれでうれしいかも。 「ルイ・・・・・・・・。」 彼女の名を呼んだ。 帰ってきたら話すつもりだった。 プロポーズの言葉は行き場をなくしてしまったよ。 4月の誕生石をあしらったエンゲージリングは僕の机の中にしまったまま。 彼女の指にはめてあげたかった。 もう・・・そんな未来は僕には残されてはいないけど・・・ 「約束・・・守れ・・・なくて・・ごめん・・・な・・・」 「・・・・・え?」 今、一瞬彼の声が聴こえた気がした。 「・・・空耳・・・かな・・・。」 今頃、彼は宇宙にいる。声なんか聴こえるはずが無い。 満天の星空を、彼がいる宇宙を見上げた。 「はやく・・・帰ってきてね・・・」 あなたの声を一番に聞きたいから。 あなたが一番好きだから・・・ 「・・・だから、早く帰ってきて・・・。」                       END プロペラ団脱出作戦(グン作) ストラーイク!バッターアウト!! 1年前、猪狩守、猪狩進という名バッテリーがいた・・・。 今その、猪狩守、猪狩進が行方不明なのだ・・・。 その猪狩進は今・・・。 脱走中!? だだだだだだだ!!! 鋼「こっちでいいって行ったのはお前だろ。」 進「こっちでいいっていったのは鋼!君だろ?」 鋼「なにぃ〜!?進だろ!!」 進「鋼だろ!」 どうも気が合わない二人なのだ。 鋼「やるかぁ〜!!」 進「やってやる!!」 ドガ!バギ!ボゴ!ドゴ! 団員「今だぁ捕獲しろぉ!」 ・・・・・・・・・。 牢屋 鋼「また、捕まったか・・・・。」 進「じゃあ次の作戦を考えようか。」 鋼「そういえば聞いてなかったけれど何でお前はここに来たんだ?」 進「!・・・じゃあ話してあげようか・・・・・。そうあの時・・・・・。」     ・     ・     ・     ・     ・ ストラーイク!バッターアウト!! 進「やったね兄さん。」 守「あぁ進・・・。」 進「じゃあ僕先に帰ってるよ。」 守「あぁ・・・。」 その日の兄さんは少し変だった・・・。 進「・・・・・・。」 ?「・・・・(バチバチバチチチチ!!!)」 進「ぇ・・・・。(バタ)」 ・・・・・。 進「パチ(あれは、兄さん・・・・?)」 ?「・・・・・・。」 そうして僕は気絶した・・・・。 進「そして気づいたらここにいたんだ。」 鋼「そうして俺がここに来たと・・・・う〜んその兄さんが怪しいな・・もしかしたらプロペラ団なのかも。」 進「で、鋼は何でここに来たの?」 鋼「秘密だ。」 進「・・・・ぬ。」 鋼「俺なりに作戦を考えてみた。   見てみろ。」 進「・・・大丈夫かこれで。」 鋼「大丈夫!・・・だと思う。」 鋼「作戦実行!」 進「スプーンで下に穴を掘るのか。」 鋼「掘れるらしいぞ。」 進「牢屋の前に見張りがいないからいいものの。」 ザクッ!ザクッ! 進「掘れた・・・以外だ。」 鋼「よし一夜づけでやるぞ!」 ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ! そして・・・ 鋼「よし全部掘れたぞ!」 進「じゃあ行くぞ!」 鋼「おお!」 ・・・・・・・ 進「団員がいるぞ。」 鋼「じゃあ、あの作戦で・・・。」 進「うん・・。」 鋼「よし!」 二人が勢いよく穴の中から出てきた。 鋼「後頭部を殴れえぇぇ!」 バギ!! 進「気絶したな・・・。」 鋼「よし、服を着るぞ。」 進「そして逃げるんだろ。」 鋼「あぁばれないように。」    ・    ・    ・    ・ 鋼「出口だ!」 進「でも何か人が2人いるような。」 鋼「お前は・・・「ボス」・・・。」 進「それと、あれは兄さん!?」 ボス「どうした?鋼そして進?」 鋼「く・・・。」 進「兄さんがなぜいるんだ!」 ボス「こいつか・・実験材料になってもらったのさ。」 進「実験材料?・・・・。」 ボス「ちょいと洗脳装置のね、そしたら上手くいき私の下部になったのさ。」 進「そういうことだったのか・・・・・。く・・僕は絶対お前を許さない!!!」 ボス「ほう?・・・。」 ボス「じゃあ1球勝負でやるか?」 進「1球勝負?」 ボス「勝負方法は守が1球投げる。そしたら、お前はその球を打て!それだけだ。」 進「で、こっちが勝ったら?」 ボス「逃げるなり好きにやれ、だが!こっちが勝ったら、お前達は実験材料になってもらう。」 進「いいだろう。」 鋼「・・・・・・。」 ボス「それでは始めるぞ、守!」 守「はい・・・・。」 進「来い!!!」 守は、大きく振りかぶりそして投げた・・。 ビシュン!!! キュイイイン!! 鋼「早い!!すごいノビだ・・・・。」 ボス「お前などに打てるはずはない・・ククク・・・。」 キュイイイン!! 進「(これは・・・ライジングショット・・・・。)」 守「いくぞ進!!」 進「いつでもいいよ兄さん!」 ビシュン!! バーン!! 守「どうだ?」 進「う〜んいつもと変わらないよ・・・・・!そうだ!」 守「どうした?進。」 進「昔、漫画で読んだんだけど腕の回転ですごくノビるらしいよ。」 守「漫画の話なんて信じられるのか?」 進「まぁいいでしょたしかこういう腕の回転だったよ。」 守「そうかやって見るぞ。」 進「こい!」 ビシュン!! キュイイイン!! 進「これは、すごいノビだ!!。」 キュイイイン!! バシィィイイン!!! プシュ〜〜・・・。 進「すごいよ!兄さん!!」 守「よしやったぞ・・・・「ライジングショット」の完成だ!!」 進「ライジングショットいい名前だね!」 進「(兄さん・・・・・。)」 カキィィイイイイイイン!!!!!! ボス「何!?」 ボールは基地の屋根を破りはるか彼方にどんでいった・・・・。 それから・・・・・。 鋼「進の兄さん洗脳装置の副作用で死んじゃったな・・・・。」 進「・・・・・・。」 鋼「やることもないしプロテストみたいなの受けてみるか?」 進「プロテスト?」 鋼「野球さ!野球のプロになるんだよ!!」 進「プロ・・・野球・・よし僕はプロになるぞ!!」 鋼「俺とお前でバッテリーを組もう!そして・・・」      ”2人でプロになるぞ!!!” New Generation としま作 部員「よっしゃー2アウト、落ち着いてこー。」 ベンチからメガホン越しに声が飛ぶ。 それを聞いたマウンド上のピッチャー、あかつき大付属高校エース、土方はゆっくりと肩で息をした。 得点2−0。もうアウト一つで甲子園行きは決定する。 しかし、2人のランナーを背負っている。油断は出来ない。 バッターは代打の一年生。実力は未知数。 サインに一発で頷き、土方はセットから第1球を投げ込む。 審判「ストライク!!」 大きなカーブに、バットは空を切る。 その後、3球で追い込み、カウント2−1。 運命の第4球・・・ ガキィーーーーン 快音と同時に、栄光学園第三高校側のスタンドは大爆発した。 レフトに舞い上がった打球は、あかつきのキャプテン、近藤の遥か上空を越えていった・・・ あかつきの夏は、終わりを告げた・・・ 近藤「来年こそ・・・甲子園を・・・・・」 引退する近藤の目からは、涙が止まる事はなかった。 その他3年生部員も、皆一様に涙を流していた。 近藤「おっと・・・失礼。これからはお前たちの時代だ。来年こそ、甲子園の栄冠を掴んで欲しい。」 2年部員「はい!!」 近藤「来年のキャプテンだが・・・猪狩、お前に任せる。    お前なら私の意志を告ぎ、このチームを引っ張って行けると確信している。」 猪狩「はい!!!」 力強く、熱い返事であった。 各先輩の挨拶後、土方は帰ろうとするある部員を呼び止めた。 土方「おい、ダイスケ。」 ダイスケ「何でしょうか。」 土方「時期エースは恐らくアンタになるだろう。そこで・・・これを受け取って欲しい。」 土方は自分の使っていたグラブを差し出した。 ダイスケ「これを・・・俺に?」 土方「ああ、オレは甲子園に行けなかった・・・せめてコイツだけでも連れてってやってくれ。」 ダイスケ「・・・はい、ありがとうございます!!そして・・・絶対甲子園に行きます!!」 ここに、一人の高校球児と、仲間達の物語が始まった。 早くから蒸し暑さが感じられるとある夏の朝。 もう蝉がせわしなく鳴き続けている。 ダイスケ「ZZZ・・・」 母「コラ、起きなさい!!」 ダイスケ「待ってよ・・・」 とある一軒の家での、ありふれた朝の出来事である。 母「今日の練習は9時からじゃなかったっけ?」 ダイスケ「・・・・あーーーー!!しまった!!」 悲鳴と共に、ダイスケはリビングへと猛スピードで駆け下りていった。 父「おはよう、何か慌しいな。どうしたんだ?」 ダイスケ「悪いけど今は話してる暇無いんだ。行って来ます!!」 いつの間にか野球部のユニフォームに身を包んだダイスケは、ゼリー飲料を鷲掴みにし、電光石火の勢いで家から飛び出して行った。 父「ははは、自分の高校時代もあんな感じだったなぁ・・・」 母「そう言えば、今日午前中に福家さんと会う約束してるって・・・」 父「・・・・あーーーー!!しまった!!あおい、悪いけどスーツとって来て!」 母(あおい)「はいはい・・・」 その表情には、「親子本当によく似てるよね。」と言う考えが表れていた。 ダイスケ・・・本名、小波大輔は両親共にプロ野球選手という家系で生まれた。 17年前、それはもう大変な騒ぎで、マスコミの注目の的となっていたものである。 当然のことながら、大輔も自然と野球を始めるようになっていた。 そして昨年、父と同じあかつき大付属高校に進学したのだ。 父とは違い、ポジションはピッチャーである。 大輔が自転車を飛ばしていると、隣からもう1台の自転車がやって来た。 大輔「あ、ショー、おはよう。」 ショー「おっはよー・・・って、大輔も寝坊か。相棒が居てよかったぜ。」 大輔「お前と一緒にすんな!!」 ショーと呼ばれたこの人物は、原田庄之助。ポジションはセカンド。 大輔とは同じクラスの友人の一人である。 2人は自転車をかっ飛ばし、学校へと向かって行った。 塀の上の野良猫が、瞬間的な速さで通り過ぎて行く二つの物体を傍観していた。 あかつき大付属高校・・・かつて甲子園常連の名門校で、神藤、一之瀬、二宮、猪狩兄弟、そして小波と言った多くのスーパープレーヤーをも生み出した学校である。 しかし、ここ数年は地区のレベルアップが著しく、あかつきの地位が危うくなってきているのも現状である。 事実、ここ7年間は甲子園出場を逃しているのだ。 昨年も、後一歩及ばず、地区予選決勝でサヨナラ負けを喫してしまった。 大輔「ハァハァ・・・8時58分・・・何とか間に合った・・・」 原田「だから言ったろ、俺は授業には遅刻するが野球部に遅刻した事は一度も無いってな。」 ???「残念ながら、ここの時計は3分遅れているよ。」 突然、背後からとある部員が現れた。 それを聞いた二人の顔からは一瞬にして血の気が失せた。 めいめい一度だけ顔を見合わせ、恐る恐る後ろを振り返った。 大輔「ああ・・・マズイ・・・」 原田「い、命だけはお助けを・・・」 ???「ハハハ、冗談だよ、冗談。こんなに簡単に引っ掛かるとはな。」 大輔「・・・・騙された・・・って、キャプテンがこんなのでいいのか?」 キャプテン「いい薬だと思え。5分前行動は基本中の基本だぞ。」 原田「よし、早く球場に入ろう。」 二人は逃げるようにその場から去っていった。 キャプテン、猪狩望もその後に続いて、球場へと姿を消した。 彼の父は、あの猪狩進である。 ???「大輔、危なかったな。ド忘れしてたのか?」 大輔「まあそんなもん。あ、後で投げ込みに付き合ってもらっていいか?やっぱり俺にはシンが一番合ってる。」 シン「ああ、いいよ。」 彼の名前は永倉新吾。大輔とは同じ中学の出身で、当時からバッテリーを組んでいる。 永倉「そういや、松平監督の後任は誰だろう?」 大輔「話によると、ここが甲子園優勝した時のOBらしいぞ。」 原田「マジか?まさか、大輔か望の親父さんだったりして。」 大輔「いくらなんでもそんな事は無いって。」 彼等の会話でもわかるように、この代から監督が代わることになっていた。 皆がざわついていると、ベンチからマネージャーと共に、一人の大柄な男が現れた。 ざわつきは、一瞬にしてその場から消えた。 登場人物紹介(1) 小波 大輔(こなみ だいすけ) ポジション:投 右投右打 フォーム:トルネード 「ミスターパワフルズ」として大活躍した小波と、女性初のプロ野球選手あおいとの間に生まれた。 トルネードから繰り出されるストレートが最大の武器で、高校生ながら150q/hを計測した事もある。 喜怒哀楽の表情変化が大きく、少々抜けた部分もあるなど父に似た性格。 様々な問題に積極的に取り組む姿勢も、父親似である。 猪狩 望(いかり のぞむ) ポジション:一 右投左打 フォーム:一本足(王) 名キャッチャー、猪狩進の息子。 チームのキャプテンで、四番に座る。 超高校級スラッガーとしての評価が高く、早くも各スカウトから目を付けられている。 野球に対する情熱は人一倍あり、練習に手を抜く事も無い。 しかし、父の名声が多少なりともプレッシャーになっているようである。 永倉 新吾(ながくら しんご) ポジション:捕 右投右打 フォーム:オープン(岩村) 強肩とパワフルな打撃が売りのキャッチャー。 大輔とは中学時代からバッテリーを組み、息もピッタリ合っている。 物事に動じない、芯のしっかりした人物である。 原田 庄之助(はらだ しょうのすけ) ポジション:二(遊・外) 右投右打 フォーム:スタンダード(立浪) 足が速く、小技も得意な典型的な二番打者タイプの選手。 同じクラスの大輔、永倉とはいいトリオを組んでいる。 チームのムードメーカー的存在。 マネージャー「こちらの方が今日より新監督に就任されました。では、自己紹介をどうぞ。」 新監督「ワシがあかつき大付属高校野球部の新監督、三本松一だ。皆、宜しく頼む。」 三本松一・・・そう、かつてあかつきが日本一の栄冠に輝いた時の四番バッター。 小波や猪狩ともプレーの経験がある。 卒業後は指導者としての勉強を積み、遂に念願だった母校の監督に就任したのである。 部員一同「宜しくお願いします!!」 三本松新監督は、部員を一通り眺め回した。 三本松「一応事前にチェックはしておいたが、皆どのような選手なのかは実際見ないとわからない。     早速練習に取り掛かってくれ。」 部員一同「ハイ!!」 部員は一礼し、球場の四方へと散っていった。 「スパーン」と、ミットにボールが吸い込まれる音が鳴り響く。 ここ、投球練習場では二人の投手が投げ込みを行っていた。 その中に、大輔がいた。 永倉「ナイスボール。いいストレート来てるよ。」 大輔「よし、次はフォーク行くよー。」 大輔は体の向きを反転させ、勢いよくフォークを投げ込む。 しかし、そのボールはワンバウンドし、永倉の股の間を抜けてしまった。 永倉「おっと。」 大輔「やべー、ワイルドピッチだ。」 ???「さっきから力み過ぎ。もっと力を抜きなさいよ。」 突然、隣から檄が飛んでくる。 大輔「そんな事わかってるさ。そっちだって、さっきから・・・」 ???「ボールが高めに浮いているって言いたいんでしょ。わかってるわよ、そんな事。」 永倉「じゃ、お互いさまということで。」 二人は再び、投げ込みを再開した。 今投げ込みをしているもう一人のピッチャーは、山南明美。 その言動からも推測できると思うが、女性である。 二人は何度か何かを言い合いながら、投げ込みのノルマをクリアした。 明美「じゃ、また後でねー。」 明美は一旦、ベンチの裏へと下がっていった。 大輔「では、グラウンドに出るとしますか。」 永倉「次は俺のフリーバッティングで投げてくれないか?」 大輔「勿論だとも。」 カーーーン 永倉の打球は放物線を描きながら外野の上を通過していった。 大輔「これで5本目の柵越えだ。」 永倉「よし、もう少しばかり頼むよ。」 大輔は勢いのあるストレートを投げ込んだ。 ブーン この打席では、バットが空を切った。 永倉「ちょっとスイングが遅れたか・・・」 大輔「大丈夫さ、豪快なスイングはシンのウリだからな。」 ???「それじゃあ困るんだよ。」 突如、二人の元へ歩み寄ってくる人物がいた。 大輔「何だよ、沖田。お前はランニングじゃなかったのか?」 沖田「そんなのとっくに終わったさ。それで、グラウンドに出てみたらあまりにも不甲斐ない打撃練習を見てしまったから、しょうがなく来てやったという訳さ。」 大輔「おい、どういう意味だ!!」 二人の間には険悪なムードが流れ始めた。 沖田「あんな一発狙いのスイングじゃ三振の数も当然多くなるだろう。    永倉は五番だからな。それじゃせっかく僕が出塁しても生還率が低くなるばかりじゃないか。    もっとこう、僕の様に確実にヒットを打てないものかねぇ。」 大輔「何を!来たと思ったらまた嫌味か。」 沖田「嫌味じゃなく、アドバイスと言ってもらいたいな。」 二人はしばらく睨み合っていたが、途中で永倉が中に入った。 永倉「二人ともよせ。俺のことにこれ以上構わなくてもいいからさ。」 沖田「そうかい、じゃ、失礼するよ。これ以上油を売っている暇もないもんでね。    ま、全打席三振しないよう頑張ることだな。ハハハ。」 沖田は笑いながら去っていった。 大輔「あの野郎・・・」 永倉「気にしないのが一番だ。それに、確かに三振の数は減らした方がいいしな。」    もう少し打たせてくれ。」 沖田総一郎は、チーム内でもトップクラスの実力者である。 しかし、よくチームメイトに難癖をつけては先程の様に対立するという事が度々ある。 ???「沖田さんと何かあったんですか?」 原田「ま、日常チャメシゴトだから慣れちまったけどな。」 明美「それを言うなら、日常サハンジでしょ。」 原田、明美、そして一人の女性がやって来た。 容姿は明美と非常に良く似ている。 それもそのはず、彼女・・・山南里美は明美の双子の妹である。 女性ながら、身体能力の高さが光り、原田と二遊間を組んでいる。 大輔「あ、アイツがさ・・・」 大輔は事の成り行きを説明した。 永倉「俺は何ともないが・・・」 大輔「俺は滅茶苦茶不満だ。何だよアイツ、シンはあんな感じのバッティングがいいのに・・・」    口さえ良ければなー、素直にいいプレーヤーなんだけどな。    あれのせいでチーム乱してるのに気付かないなんて、もしやアイツは・・・」 里美「本人が居ないからって、ちょっと言い過ぎでは・・・」 明美「言いのよ里美。全く持って同感よ。」 大輔はその後も愚痴を吐いていたという。 三本松「今日で大体の選手を把握できた。明日以降、個別で見ていくからな。     それでは、解散。」 部員一同「お疲れ様でした!!」 部員はグラウンドを出て、家路につこうとしていた。 大輔が荷物を片付けていると、後ろからマネージャーがやって来た。 マネージャー「小波君。これ・・・」 大輔に封筒が差し出された。 大輔「ん?」   (もしやこれ・・・ラブレター!?い、いきなりこんな展開!?) マネ「昨日ロッカーに落ちてたわよ。これ、小波君が出そうとしてた懸賞でしょ?」 大輔はふと我に帰った。 そう、昨日から懸賞の応募はがきをなくしており、半ば諦めかけていたのである。 大輔「はは・・・あ、ありがとう。」 大輔は嬉しさ半分、悲しさ半分の微妙な表情を浮かべた。 マネ「それじゃあね。お父さんったら、帰って来ないと私を捜させるのよ・・・」 大輔「大変だね・・・じゃ、また明日。」 こうして大輔、マネージャーの遥も家路についた。 大輔(しかし、あんな人でもやっぱり娘の心配はするんだな・・・) ???「ハクション!!」 秘書「猪狩社長、冷房の温度を少し上げましょうか。」 猪狩「ああ、そうさせてもらおう。」   (誰かが噂をしている・・・のか?) 登場人物紹介(2) 沖田 総一郎(おきた そういちろう) ポジション:外 右投両打 フォーム:振り子 走攻守の全てにわたって才能を発揮するプレーヤー。 特にその打撃センスは抜群で、非常に高いアベレージを誇る。 しかし、自分の実力を鼻にかけているのか、各選手に対して難癖ばかりつけている。 チームプレーに徹さない面もあり、チーム内では孤立している感もある。 山南 明美(やまなみ あけみ) ポジション:投 左投左打 フォーム:サイドスロー(小林繁) 山南姉妹の双子の姉。 左腕からのコーナーを突くコントロールとスクリューボールが武器。 大輔から明美への継投は必勝リレーと言われている。 強気で少々きつめの性格だが、根は優しいらしい。 ちなみに、母はみずきの姉である。 山南 里美(やまなみ さとみ) ポジション:遊 右投右打 フォーム スタンダード(二岡) 山南姉妹の双子の妹。 中学時代はバレーボールを経験しており、その動きを生かしたな守備を見せる。 姉とは逆に、温厚な性格。 しかし、キレると物凄く怖いらしい。 猪狩 遥(いかり はるか) あかつき大付属高校野球部マネージャー。 野球に関する知識も豊富で、仕事もソツ無くこなすため、部員からの評判はかなり高い。 現猪狩コンツェルンCEO猪狩守の一人娘。 しかし、いたってフツーの高校生で、父の過保護に少々迷惑している。 第3話 過去、そして未来 8月も半ばに入り、新チームも徐々に形になりつつあった。 そんな中、大輔は望を相手に練習を行っていた。 互いに真剣な目をしている。それもそのはず、今日は監督直々に二人の練習を見ることになっていた。 三本松は腕を組んだまま、何も言わずにじっと二人を眺めていた。 シュッ!! カキーン!! シュッ!! ブン!! 大輔のストレートが炸裂したかと思うと、次の打席では強烈な打球が外野へと飛んで行く。 両者一歩も譲らない内容である。 手に汗握る勝負とは、まさにこの様な事だろう。 三十数球後に、三本松が立ち上がり、熱闘を演じた二人の元へとゆっくり歩み寄った。 三本松「いやー、二人とも見事だ。今まで様々な高校生を見てきたが、こんなに素晴らしい選手は居なかったぞ。」 望「ありがとうございます。」 大輔「そこまで褒められると、何だか照れくさいですね。」 三本松「流石は、あいつらの息子だけはある。」 と、奥から遥がやって来た。 遥「監督、電話です。」 三本松「お、そうか。じゃあまた後でな。」 そう言って、三本松は遥と共に奥へと消えて行った。 大輔「そういや、三本松監督って親父のここに居た頃の選手だったな。」 望「昨日父さんから聞いたよ。『あかつき打線の核だった。』って聞いたさ。」 大輔「ともかく、凄い選手だったんだなぁ。帰ったら親父に聞いてみよう。」 二人はその場で別れ、それぞれ別の練習へと移っていった。 午後五時、練習の終わった選手達はベンチ前に集められた。 三本松「皆に報告したい事がある。昼に電話があって、明後日の日曜日、練習試合が決定した。」 選手一同「おお!!」 選手は一様にざわめいた。新チームとなり、初の試合である。 三本松「相手は青竜高校だ。隣の地区の高校がわざわざ出向いてきてくれるからな。     いい試合をしないと、失礼になるぞ。」 選手一同「ハイ!!」 三本松「メンバーは明日発表する。それでは解散!!」 皆、試合のことを考えながら帰途についた。 無論、大輔たちも例外ではなかった。 原田「おいおい、青竜高校だぞ。オレ達が一年生の時、甲子園で結構勝ってたよな。」 永倉「青竜は打撃のチームだ。打ち合いになるのは必須・・・」 大輔「ちょっと待ってよ、この俺が抑えてやるから。」 三人は自転車に乗りながら談笑し合っていた。 この三人は、試合への不安などは微塵も感じていないようだ。 空は闇に包まれんとしていたが、ほのかに青色が残っている。 大輔はバッグを重たそうに背負い、玄関への階段を一歩ずつ上がっていた。 大輔「ただいまー。」 と、リビングの方から二人の男性の話し声が聞こえてきた。 一人は小波だが、もう一人は家の中では聞かない声である。 大輔「あれ、お客さん?」 あおい「着替えたらリビングに行って。大輔とも話がしたいんだって。」 大輔「俺と?誰だろう・・・」 大輔は2階で着替えを済ませ、階段を下りて行った。 大輔「どうもこんばんは。大輔で・・・・って、ええーーーー!?」 大輔はリビングに入った途端、我が目を疑った。 そう、自分の父の目の前で談笑していたのは・・・ 大輔「か、監督!?こんな所で何やってるんですか?」 三本松「おう、お邪魔してるぞ。」 紛れも無く三本松監督本人であった。 大輔は未だに目の前で何が起きているのかわからず、混乱中である。 小波「俺が呼んだんだ。先輩の監督就任祝いも兼ねてな。さ、大輔も座れ。」 言われるがままに、大輔も椅子に座った。 大輔は、ようやく状況を理解した様子である。 しばらくしてあおいも着席し、一家+父の先輩で息子の監督で囲む食卓という奇妙な図になった。 話題は、小波と三本松の高校時代の話になっていた。 小波「それにしても随分と昔になりますね。甲子園優勝。」 三本松「ああ。あの頃の事は片時も忘れてはいまい。何せ、自分の原点みたいなモンだからな。」 あおい「見ていて凄いチームだったよ。あかつきとは次の年に対戦したけど、そのチームともやってみたかったなぁ・・・」 大輔「あのさ、その時のこと詳しく聞かせてよ。」 小波「よし、丁度いい機会だ。俺の武勇伝をとくと・・・」 あおい「調子に乗るんじゃないの。」 三本松「ハハハ・・・あれは・・・もう20年以上前か・・・」 めいめい、自分の高校時代を話し始めた。 甲子園一回戦敗退と秋の予選での苦戦、そこから這い上がった軌跡。 二宮、三本松、四条、五十嵐、六本木、七井、八島、九十九といった個性豊かなメンバー。 小波とその先輩達との友情。 部内での悩みや葛藤。 そして、宿敵帝王実業を倒し、彼等全員で掴んだ栄誉・・・ 猪狩兄弟、小波達への世代交代。 春の敗退からライジングショットの完成まで。 そして、突如現れたアンドロメダ高校との死闘の果てに掴んだ二度目の栄誉・・・ 大輔はその話一つ一つに聞き入っていた。 三本松「いきなり今の話に戻るが、ワシは新チームを見て一つ気付いた事がある。     このチームは、ワシが居た頃のチームに似てる様な気がしてならないんだ。」 大輔「本当ですか!?」 大輔は思わず机から身を乗り出していた。 三本松「それぞれの選手に特化した技術があって、何より個性が強い人物が多いからな。」 大輔「じゃあ、もしかしたら・・・」 三本松「だがそれだけ纏めるのも大変だ。猪狩だけでは荷が重いだろう。     そんな時は、副キャプテンであるお前が支えるんだぞ。」 大輔「わかりました!!」 時計を見ると、既に九時近くになっていた。 三本松「おっと、もうこんな時間か。ではワシは失礼しよう。」 小波「これから期待しています。頑張って下さい。」 あおい「またいつでも来て下さいね。」 大輔「母さん、それはちょっと勘弁・・・」 こうして三人は、玄関で三本松を見送った。 この日、大輔は決意を新たにしていた。 翌日の練習終了後、いよいよ練習試合のスタメンが発表となった。 三本松「それでは守備位置順に発表して行く。ピッチャーは・・・・小波!」 大輔「ハイ!!」 登場人物紹介(3) 三本松 一(さんぼんまつ はじめ) パワプロ9に登場。あかつき大付属高校野球部新監督。 あかつき全国優勝時の四番を張っていたバッターである。 大学卒業後は指導者としての勉強を積み、数校の監督となった後に母校の監督となった。 采配は未知数だが、選手の能力の本質を見抜く力を持っている。 第4話 プレイボール 遂に運命の日がやって来た。 あかつき大付属高校、新チームの初陣である。 選手は早めに球場に到着し、それぞれ練習を始めていた。 大輔は球場の近くの公園をランニングしていた。 大輔「えっほえっほ・・・・さて、そろそろ戻るか。」 大輔が球場へ帰ろうとした、その時である。 ???「君、ちょっと待ちたまえ。」 ベンチに座った長髪の男が大輔に声を掛けてきたのである。 大輔は怪訝な表情を浮かべた。 大輔「こんな朝から何なんですか?一体。」 ???「私は別に怪しい者ではない。」 大輔(どう考えたって怪しい・・・) ???「あかつきの野球部だね。君の所の先発ピッチャーを知らないか?」 大輔「え?一応・・・俺ですけど。」 ???「丁度良かった。」 と、男は野球ボールを取り出した。 ???「一球、投げてみてくれないか?」 大輔「まあ別にいいですけど・・・」 大輔は言われるがままに男からボールを受け取り、一呼吸してフォームを構えた。 体を大きく捻らせるトルネード投法。大輔はそこから得意のストレートを投げ込んだ。 球は男の前を通過し、壁に当たって大きくバウンドした。 ???「なるほどね・・・ありがとう。試合頑張れよ。」 大輔「は、はぁ、どうも。」(何だったんだ?) 大輔は首をかしげながら球場に戻っていった。 午前9時、一台の青いバスが球状の隣に停まった。 そう、青竜の選手が到着したのである。 大輔「来た・・・」 大輔達は外のバスにじっと見入っていた。 中からはぞろぞろと選手が出てくる。 青竜高校は、隣の地区では橘商業、霊盟社と共に3強と呼ばれる高校の一つで、毎年の様に甲子園を争っている。 三冠王も獲得した滝本を輩出した高校としても有名。 一昨年の甲子園では、ベスト4に入った実績もある。 チームカラーとしては、打のチームといった印象が強い。 特にクリーンアップの破壊力は凄まじいとの評判である。 ブルペンでは、永倉を座らせ、大輔が最後の調整を行っていた。 永倉「ナイスボール!」 大輔「よし。」 望「頑張ってるな。」 と、後ろから望がやって来た。 大輔「ああ、自分の調子はいいと思う。」 望「側から見ても、今はいい球が来ていると思う。だが、力みは禁物だぞ。」 大輔「アドバイスありがとう。もう少ししたら俺も上へ行く。」 望は力強く頷き、グラウンドへと出て行った。 大輔「よし、俺達も行こう。」 数分後、大輔と永倉もグラウンドへと出て行った。 と、入れ替わりで沖田がベンチ裏へと向かっていた。 大輔とすれ違った時、沖田は何やら呟いた。 沖田「・・・忠告だ、直球に過信するな。」 だが、当の大輔本人は聞こえない様で、そのままグラウンドに飛び出した。 沖田「フン・・・痛い目を見るのは必至だな・・・」 望「必勝!!」 選手「オー!!」 正午、遂にプレーボールの時間となった。 選手達は横一列に並び、正面を向き合った。 主審「礼!!」 合図と共に、選手達は深々とお辞儀する。 そして、あかつきの選手達はいっせいに各守備位置へと散っていく。 いよいよ戦いの火蓋が切って落とされんとしている。       練習試合     あかつき 対 青竜       オーダー  あかつき       青竜 1 左 藤堂    1 遊 吉田 2 二 原田    2 右 上野 3 中 沖田    3 一 谷 4 一 猪狩    4 中 北島 5 捕 永倉    5 三 野村 6 投 小波    6 左 柴田 7 三 斉藤    7 二 米田 8 右 井上    8 投 室伏 9 遊 山南(里) 9 捕 内柴 一回表 マウンドには大輔が上がった。左バッターボックスには青竜の一番、吉田。 大輔(さーて、一丁やったりますか。) 永倉からの最初のサインはストレート。 大輔は素直に首を縦に振る。 そして、トルネードのモーションを起こした。 体を大きく捻り、そこから渾身の第一球が振り下ろされる。 ビュッ!! 主審「ストライク!!」 吉田「は、速い・・・」 直球は内角真ん中にズバッと決まった。 吉田は手を出せそうに無い。 ピピッ 遥の持つスピードガンが反応する。 遥「147q/h。やっぱり速いわね。」 主審「ストライク!!バッターアウト!!」 全球ストレートで吉田を空振り三振に打ち取った。 大輔は思わずその場でガッツポーズをした。 バックネット裏からは、多少ながら拍手も聞こえてくる。 結局、大輔はこの会を三者凡退に抑えた。 里美「ナイスピッチングでした。この調子で行きましょう。」 大輔「ああ、やっぱり今日は調子がイイや。」 素晴らしい立ち上がりを披露する大輔であった。 が・・・・ 一回裏 カン!! 藤堂の打球は上手くショートの頭の上を越えていった。 明美「ナイスバッティン!」 一塁コーチャーズボックスに立つ明美がポンポンと手を叩く。 続く原田はきっちりと送りバントを決め、一死二塁と早くも先制のチャンス。 左バッターズボックスには沖田が立った。 相手ピッチャー、室伏はセットポジションから沖田に対する第一球を投じた。 ビュッ!! 沖田(スライダー・・・) カキーン! 強烈なライナー。打球はセンターのフェンスにまで到達した。 藤堂は悠々と生還。 三本松「よし、いいぞ!!」 三本松はメガホン越しに二塁の沖田を激励する。 幸先良く1点を先制。尚もバッターは四番、望。 その五球目だった。 カキーン!! またもや強烈なライナー。今度はあっと言う間にフェンスを越えていった。 望は悠々とダイヤモンドを一周し、ベンチに迎えられた。 マウンド上では、室伏が難しい顔をしている。 結局後続は打ち取られたものの、見事初回に3点を先制した。 試合は、両者得点が無いまま三回へと進んだ。 特に大輔の内容は素晴らしく、三回を奪三振4、無安打無四球と完璧な内容である。 誰も大輔が打たれる見込みはないと思っていた。 四回表 大輔がマウンドに上がった。 相変わらず傍からは直球が走っている様に見える。 投球練習も終わり、吉田が打席に立つ。 サインは直球。大輔は大きく振りかぶり、体を捻らせる。 シュッ!! カン 大輔「あっ。」 吉田の打球はファーストの頭上を越え、ライト前にポトリと落ちた。 直球を上手く流され、大輔はこの試合初めてのランナーを出した。 続く二番、上野。早くも送りバントの構えである。 大輔(ここは変な事をせず、確実にアウトを一つ取りに行こう。) 永倉は真ん中辺りの球を要求していた。 中学からバッテリーを組んでいただけあって、意志の疎通も出来ているといった所だろうか。 セットポジションから大輔は第一球を投じた。 すると、上野はいきなりヒッティングの構えに戻ったのである。 永倉「しまった。」 カン!! 球は甘かったため、案の定ヒットを打たれてしまった。 無死一、二塁の大ピンチで、クリーンアップを迎える。ここが正念場である。 左打席に入るのは谷。 大輔はロジンバッグに手をやり、一旦深呼吸をし、谷と対峙した。 セットポジションから勢い良く球を放る。が・・・ 審判「ボール。フォアボール。」 ストレートのフォアボール。結果は最悪だった。 谷はバットを捨て、悠々と一塁に向かう。二人のランナーも、それぞれ進塁。 たまらず、内野陣が大輔の元へ駆け寄ってきた。 原田「大輔、オレ達が守り抜くからな。」 望「この状況からして、1点は仕方ないと思う。   だが、リードは3点あるからな。落ち着いて行けよ。」 永倉「とりあえず、動揺はするな。」 大輔「・・・ああ・・・」 しばらくの後、内野はそれぞれのポジションに散っていった。 大輔もゆっくりとマウンドへ戻る。 相手バッターは四番、北島。青竜の強力な打撃陣の中で四番を打つ人物。 一筋も二筋もいかないことは、大輔も十分承知している筈だ。 大輔は永倉のサインを注視する。フォークである。 大輔(落ち着け・・・落ち着け・・・打たせない・・・) 自分の中で気持ちを落ち着かせそうとするが、心の焦りも見え隠れするのか、なかなか投げようとしない。 と、北島が両手を広げる。 永倉が何か叫んだが、大輔は少し頷くだけである。 審判の合図で、試合が再び始まる。 12秒後、大輔はとうとう足を上げる。 そして・・・ ビュッ! 永倉(甘い!!) 北島(もらった!!) カキーーーーン!! 打球は快音を残し、場外へと消えていった。 大輔は、呆然とそれを見ていることしか出来なかった。 二塁ランナーがホームに帰って来る辺りで、がっくりと腕を落とした。 大輔はその後も立ち直れず、打者を一巡させてしまい、結局この回だけで7点を奪われてしまった。 続く四回裏は永倉からの攻撃だったが、ネクストバッターズサークルに大輔の姿はなかった・・・ 後続のピッチャーは踏ん張り切り、青竜打線を1点に抑えた。 しかし、打線はあと一歩の所で及ばず、結局試合は6−8で敗れてしまった。 あかつきにとって、特に大輔にとって、この試合は苦い物となった・・・ 試合後、大輔は永倉、原田と共にとぼとぼと歩いていた。 大輔「ハァ・・・」 原田「まあ、課題が見つかってよかったじゃない。」 永倉「ああ。まだ大会まで時間があるからな。」 と、そこへ現れたのは・・・ 沖田「なーに楽観的なこと言ってんのかなー。」 原田「何の用だよ。」 沖田「最初の一巡をパーフェクトに抑えて調子に乗っていた。全然駄目。    それに自分の能力を過信し過ぎてる。    これがエースだなんて、笑わせてくれるよ。    せっかく僕が打っても、ピッチャーがこれじゃあお話になりません。」 大輔「・・・言わせておけば!!」 大輔は拳を振り上げた。永倉と原田はそれを制止しようとする。 永倉「やめろ、暴力だけは絶対にだ。」 沖田「フン、自分の事なのにそうやって人に向けて拳を振るうのか。    暴力ってのはな、人間が使う中でもっとも幼稚な自己表現法なんだよ。ハハハ。」 そう言い残し、沖田は去っていった。 大輔「チクショーーーー!!!」 大輔は両手で地面を思いっきり叩き付けた。 木陰からは、蝉の鳴き声だけが騒がしく聞こえていた。 スタンドには、朝、大輔が公園で出会った男が座っていた。 ???「こいつは・・・・育て甲斐がありそうだ。」