星になるまで 作:荒瀬 季夜    空がゆっくりと赤く、赤く染まっていく。近所の友達とサッカーをして帰ってきた穂高は、湯船につかりながら窓から見える大きな太陽を見つめていた。妹の沙夕(さゆ)は母、風花とサンドウィッチを作っている。 「お父さんっお父さん!」 バタバタとお風呂から上がってきた穂高に、風花は顔をしかめる。 「穂高!ちゃんと髪の毛乾かしなさいよ。風邪ひくわよ」 「はーい」 穂高はバスタオルでわしゃわしゃと髪をこすった。短い髪は好き放題に飛びまわり、ふんわりと頭を覆った。 「おーい穂高!タオルケットをバッグに詰めるの手伝ってくれ」 ひょいと顔をのぞかせた父、豊の顔は日焼けして真っ黒だ。 「ねぇお父さん、今日いよいよだね」 豊はにっこりと笑ってタオルケットをたたむように言うと、いつもは少しゴネる穂高も今日は快く返事する。 「お兄ちゃんになったなぁ」 しみじみと豊は思う。でも穂高の無邪気な笑顔は愛くるしいほどの笑顔でいっぱいだ。  1年に2回、1日中灯りをつけてはいけない日がくる。それは冬至と夏至に行われる、“夢語”があるから。  冬至の日には家族そろって皆の夢が星になりますように――夢が叶いますように、と静かに祈る。そして皆が最も楽しみにしているのは今日、夏至。この日は“星詩”(ほし しらべ)とも呼ばれる。 「ね、お母さん」 沙夕はお茶を水筒にいれながら目を輝かせて話しかける。 「今年はどんな夢が星になったのかな?」 「もうじき分かるわ。さあ水筒をカゴにつめて。あなた」 風花は豊に声をかけた。 「おし、準備できたな。それじゃあ行こうか。光公園に出発!」 4人はすっかり戸締りを済ませると、まだ明るい空の中を歩きはじめた。 「お父さん、なんで今夜じゃない外国の人たちも電気を消すの?」 「それはね」 豊は皆の顔を見回して言う。 「人間の作った光で、星になった“夢”を見失わないようにという願いが込められているからなんだって」 「じゃあ宇宙から見たら、地球は今真っ暗なのかな」 と穂高。 「♪まっくら まっくら そしたらおそらに 夢がきらり」 沙夕が嬉しそうに歌うと、穂高も一緒になって 「♪明るくなって 喜んだから 夢が叶って も1つきらり」 続きを歌った。  歩いていくうちに、4人は公園に着いた。街灯も消されているが、日が長いのでまだ明るかった。4人は公園の芝生で覆われた柔らかな丘にレジャーシートをひいた。  豊たちのように外に出て星詩を楽しむ人たちもいるし、窓から空を眺めて楽しむ人たちもいる。ただ、この日を楽しみにしているのは皆一緒だった。  星詩――夜空に輝く星に自分の叶った夢、叶えたい夢をたくして語ること。その時間は今や世界中で共有されているのだ。  ご飯を食べ終え、タオルケットをかけてシートの上に寝転がった4人は、いよいよ星詩を始める。 「せぇの」 豊のかけ声に、4人は節をつけて叫ぶ。 「ほーしになった、夢ひとつ」 去年は沙夕からだったので、今年は穂高が最初だ。 「僕、今日サッカーで3点もいれたんだ!これからもずっとサッカーを続けて、日本一の選手になりたい」 星はきらきらと瞬いている。 「じゃあ穂高は世界で活躍するのかな?」 風花の問いに、穂高はうーん、と唸る。 「子供たちのヒーローになれればなんでもいいっ」 「頑張れよ。あの星が、穂高の夢なんだからな」 豊は力強く言った。 「じゃあ」 「ほーしになった、夢ふたつ」 「私は……」 風花がゆっくりと話しはじめる。 「穂高と沙夕がこれからもいろんな事を乗り越えて、優しく、強く生きていってくれるといいな」 「お母さん、またそれだねっ」 と沙夕。穂高もうなずく。 「それくらい母さんにとっては大切なことなんだ。もちろん、父さんにもね」 穂高と沙夕は照れたように顔を見合わせた。 「せぇの」 「ほーしになった、夢みっつ」 そう言った直後、沙夕はひときわ美しく輝く星を指して言った。 「あのね!あの星。うたのコンクール出たでしょう? あたし、すごく楽しかったの。ちょっとだけ怖さもあったんだけど…… でも皆で歌えたから、ホールいっぱいに響いたから、嬉しかったんだ!その時の夢があの星なの」 「頑張ってたもんね、沙夕」 「立派な星じゃないか。またあんな風に、夢が星になったらいいな」 「うんっ」 こっそり、穂高が沙夕をつっついた。 「負けないぞ」 言って、にやりと笑った。 「さ、次はお父さんだよ!」 すると、豊は咳払いを――いかにもわざとらしくした。 「お父さんの夢、聞きたいか?」 あんまり真顔だったので、風花も穂高も沙夕も大声で笑った。 「せえの」 「ほーしになった、夢よっつ」 ――いずれその小さな光は、大きな道しるべとなるだろう。  次にその道を歩こうと決めた、小さな背中のために。