瞳の中のBattle Cry:コウレン作 飛空艇〈Arc-01 "Crom Cruach"〉はやや強めの風の中、滞りなく飛行している。 空は、この上なく快晴だ。 地上には、ハワイ島の半分は埋め尽くすであろう、巨大な軍事基地がそびえ立っている。 「……っかし、よくもまぁ誰にも気付かれずにこんなどでかい基地を造り上げたもんだな、おい」 〈Arc-01 "Crom Cruach"〉の艦長室に映っているモニターを見て、『彼』は言った。……とはいえ、身なりこそ朱色の軍服でピッとしているが、その屈強な軍人とはかけ離れた体つきに、まだ幼さの残る童顔……どう見てもそれは、この場には相応しくない年である事は明白だ。 しかし、それを気にするでもなく、隣に立つ――これもまた、軍服に身を包んでいる――男が彼に言う。 「しかし、我々の予想していた戦力よりは遥かに手薄です。技術面は多少突出しているようですが……九十九%任務には支障はないと思われます」 そう言った男の体躯は、小さい『彼』とは違い、かなり大きく、それでいて、威圧されるような眼光でモニターを直視している。 白い髭を蓄えたその顔からして、五十歳は過ぎているだろう。 「……残りの一%を侮り壊滅していった部隊ってのは、数限りなく存在すると教えてくれたのは……中佐、お前だろう?」 「……!」 咄嗟に『中佐』と呼ばれた男の視線が『彼』に移る。一瞬、その高圧的な言葉にたじろいだが―― 「……ま、いいや。大丈夫なら。で、戦力としてはどんなもんあるんよ?」 ――すぐに『彼』は、いつもの喋り口調に戻った。 「ふむ、データから照合したところ、人型兵器が四機に、対空砲が七基ですな」 中佐も、すぐに元の態度に戻すところを見ると、やはり、長く軍に滞在しているというのが判る。 「そうか、なら……」 命令を下そうとしたその時、視界が歪む。 いつものことだ、さして気にせずに話を続ける。 「……戦闘員は第一種戦闘配置だ。俺も向かう」 「お言葉ですが、艦長。〈"Phantom"〉はまだ起動出来る状態ではありません。〈"Type-R"〉ならいつでも起動出来ますが?」 「いや、〈"Phantom"〉で行く。ブラックホール・リアクターが使えないのなら、通常のニトロ・ギアエンジンで起動させてくれ。それで何分かかる?」 「私では判りかねますが、とりあえず整備部隊には連絡しておきますので、格納庫へと向かってください」 「OK」 椅子から立ち上がり、一息ついて、彼――いや、宅間明は少し口元を緩ませて、言ったのだった。 「これが終わったら飲み会だぜ」 1.廻り出した歯車 四月。鳴海学園。 高校入試という熾烈な戦いを生き残った、新たな仲間をこの学園へと迎え入れる盛大な儀式。 それは、入学式である。 宅間明は鳴海学園の二年生になり、新入生を歓迎すべく準備を手伝って―― 「めんどくさ……逃げちまえっ」 「あ、こら!?宅間、どこに行くんだ!!」 ――いなかった。まんまと担任の目の前から逃げ失せたのだ。 担任は最もひ弱そうな教科で専ら噂の、『理科』担当教諭だったが―― 「待て、宅間!逃がさんぞ!」 「何、俺より速いだと!?」 残念なことに、この教諭――梶浦は、その昔陸上部に所属しており、高校三年生の時には、国体で準優勝した 程の実力の持ち主だ。当時世間を賑わせた『フルアクセル・ダッシャー』は未だに健在である。 それに比べ、宅間の体力といったら。 握力が三十一。 五十メートル走が九.一二秒。 その他諸々、言うまでもない、散々な成績である。 そんな宅間が、梶浦に勝つ、たった一つの手段は…… 「ほら、梶浦!あんたの好きな〈星野めぐみ〉の写真だぞ!」 懐から大量のネガを取り出して、後方の梶浦に撒き散らす。 「うわっぷ!……おぉおおぉっ、めぐたぁ〜ん!!」 顔に引っ付いた写真を見るなり、その場に崩れて、写真を必死に拾い集める。 「ふっ……所詮、俺の敵ではないな……」 「ふぅ……ここまで逃げれば、もう大丈夫だろ……」 その時だった。 首筋に冷たい感覚を感じた。そう、何か鉄の様な。 「動かないで」 女性、いや、彼と同じくらいの年であろう少女の声。 振り向こうとすると、静止させられる。 「動かないで、って言ったはずだけど」 首筋に当たった感覚が更に力強くなる。大体、何か想像は付いた。 「抵抗はしない。とりあえず、振り向かせろ」 「……変な真似したら、撃つから」 感覚もそのまま、身体ごと女の方を見る。 そこには、やはり自分の年と大差ない少女が立っていた。 その姿は、鳴海学園の制服。左手には、大きな自動拳銃が握られている。それが彼の首を押し付けていたらしい。 そして、端正に整ってはいるが、まだ幼げを残した―多分、笑うと可愛いだろう―顔をキッと締まらせて、明を睨んでいる。 「……えっ…と、何のつもりだ?」 「<拓真 明>…年は十六、現在は母、姉との三人で生活をしている。父は……五歳の 時、他界。間違いない?」 「……は?」 「間違いないか、と聞いているの」 銃口を向けたまま返答を問われる。 嘘を付いたり、口をつぐんだりすれば撃たれるのだろうか。 「……合ってるよ。これでいいか?」 答えると彼女は胸ポケットから何やら小さいメモ帳を取り出し、ざっと目を通したところで、言った。 「……よし。じゃあ、これから私に着いてきて。いい?」 「うん………って、んなわけないだろっ!」 無表情のまま彼女は、 「何か不服でも?」 「あのさぁ……いきなり見ず知らずの少女にテッポー突き付けられて?何か俺のプロフィール聞かれて?揚げ句の果てにゃあ…着いてこいだぁ!?ふざけんのも大概にしやがれ!行くなら一人で行けよ?ほら!まあさ、そんなムッツリしてっと可愛い顔が台無しになっちまうぞ?笑って帰れ、笑って」 自分でも広舌だと息をつきながら思った。 しかし、そんな彼の必死の台詞も虚しく、 「……あなたには関係ない。私と共に来なさい」 一言で済まされた。 「ぐ…く……」 「……余計な事を言わなくても、いいのよ。私には…そんな『笑う』なんて表情は必要、ないもの」 無表情が一瞬変わった。 何か寂しそうな顔に。 すぐにムッツリとした顔に戻ったが、彼はそれを見逃さなかった。 しかし、敢えて問うなどという無粋な真似はしなかった。曲がりなりにも女性には聞かれたくない事がある…そこまで考えての事だった。 「…ま、いーさ。着いていこうじゃないか」 「そう…なら準備をしてきて」 「準備って、このまま行くんじゃないのか?」 「あなた、親がいるんじゃないの?」 「……!」 彼女は遠い目をして呟いた。 そして、その言葉に頷く。 「…分かった。……ありがとう」 「礼を言われるほどのものでもないわ。でも…一応、有り難く受け取っとくわ」 「え?」 「何でもない、早くしなさい」 「…あぁ、行ってくる」 先生がいなくなるのを待って、明は校門を走り抜けていく。 彼女はその後ろ姿を見る事もなく、校舎裏へと消えていった。 〜本部基地・休憩室〜 「から連絡はあったか?」 何もない質素な部屋でぷかぷかとパイプを銜えた男が言う。 ふさふさとたくわえた白髭にがっちりとした肉体。 50代に見えなくもないが、それにしても大きい。着こなした朱色の軍服の上からもそれが分かるほどだ。 『…[少年を確保。只今よりへ急行する]との事であります』 内部通信機のスピーカーから報告の声が聞こえる。これは女のもののようだ。 パイプから煙を吐き出して、男が言った。 「了解だ。では、にこう伝えろ。『にてと合流後、速やかに帰投せよ』と」 「アイ」 〜太平洋上空・セスナ機内〜 綺麗な海。雲一つ見当たらない青空。 それらを彼は受け付ける事なく怒っていた。 目の前に座っている少女―まだ名前も分からない―はそれを見ようともしない。 「後数時間で合流地点に到着するから」 「あ、そう…」 「気分でも悪いの?」 「おう、機嫌が悪い」 「……?」 明が怒っている理由。 それは二つある。 まず一つは―― 母に適当な理由を話して当分家を空ける、と言ったのだが、頭ごなしに、 「どうせ学校サボって遊ぶんでしょ!?あんたはいつもそう!家族に心配ばかり かけて、お姉ちゃんはいい子なのに……」 と、一時間ほど説教を喰らった揚げ句、 「さっさと行きなさい!!」 と、追い出される始末である。 もう一つの理由は―― 行き場所が分からない上に教えてくれないのが気に食わない。 (そもそも俺が必要なら場所くらい教えやがれ…!) と、顔に浮き出しそうな勢いである。 ――以上。これが明の怒っている理由だ。 とうとう耐え兼ねて彼は目の前に座って物思いに耽っている少女に話し掛けた。 「……おい」 「………」 「この飛行機はどこに向かってんだよ」 「飛行機じゃなくてセスナ機よ」 「そうじゃね――」 怒声と当時に機体に衝撃が走る。 「な、何だぁ!?」 「まさか…!?」 「まさかって――」 言いかけると、外から爆発音が響く。窓から見てみると、右翼から火が出ていた。 すぐさま操縦席から焦りを含んだ声が来る。 「軍曹!第二、第三エンジンを損傷!」 「ちっ…後どれくらい持ちそう!?」 「持って二分です!」 明には彼女達が何を言っているのが理解が出来なかった。 エンジン損傷…? 持って二分…? そして… ――この女が…軍曹…? 分からない事だらけの中、『軍曹』は忙しくシートから操縦席のパイロットに向かって話し掛けている。 「くっ…高度一○○○!軍曹、パラシュートを着用し、速やかに降下してください!」 「分かったわ!」 シートの下からバッグのような物を取り出して、彼女は手際良く自分の身に着用する。 「おい…、何を…」 「あなたも…いや、ちょっと来なさい!」 「は?」 「時間がないの!海の藻屑になりたくなければ荷物を持って早くして!」 「あ、あぁ…」 言われた通りにすると、金具の付いたベルトを無理矢理着用させられる。文句の一つでも言おうとしたが―― 「準備完了!これより降下します!」 「了解!軍曹、ご武運を!」 「えぇ…あなたも、また会いましょう!」 彼女はハッチの横にあるレバーを回した。 すると、そのハッチが開き、凄い風が入ってくる。 「…お、おい…まさか……」 かちゃり、と音がする。 見ると、彼のベルトに付いている金具と彼女のベルトの金具が結合していた。 「行くわ、荷物離しちゃ駄目よ!」 「ま、待っ――」 言い終わらない間に、彼女は明と共に空へと飛び出した。 「う、うわあぁぁぁぁぁっ!?」 その時、彼は思った。 ――やっぱり、着いてこなければ良かった、と。 彼は波打ち際で目を覚ました。 気付いた時には一人。 さざ波の音に、聞いた事のない鳥の鳴き声。そして―― 「な、何だこりゃ……?」 この小さな島にはそぐわない建物が目の前にそびえ立っていた。とてつもなくでかい建物が。そして、見た目で分かる頑丈さ。 いや、このスケールは最早、『要塞』と形容した方がしっくり来る、それほどの物だ。 「これって……軍事施設だよな……!?」 考えると頭が痛くなる。近くにあった木にごつごつと頭をぶつけてみる。 余計痛みが増しただけだった。 (……何でこんな所にいるんだっけ) 明は普段使う事のない脳をフル回転させた。 2.旅は道連れ、世は情け? 〜数時間前 太平洋上空〜 「い…あぁぁぁぁぁっ!!」 叫ぶ叫ぶ。 が、風の音がそれらを全て掻き消す。 彼女は至って冷静。声も出さなかった。 と、身体が持ち上がる。 パラシュートを開いたのだ。 落下速度が遅くなった為、ある程度身体にかかる負担は小さくなる。 「あ、あぁ……」 ズガンッ、と、頭上から爆発音が聞こえる。どうやら先程まで乗っていたセスナからのようだ。パイロットも生きてはいないだろう。 が、事態はそれだけでは済まなかった。 爆破したセスナの破片が落ちてきたのだ。それらは炎を纏って、彼らのパラシュートを突き破る。運良く彼らには当たらなかったが、穴の開いたそれは役には立たない。 即ち、『落下』を意味する。 「きゃっ……」 「お…おぉあぁあぁっ!?」 勢い良く落ちていく二人。 やがて海は彼らを飲み込んでしまった。 「……そうだった」 ようやく思い出した様子で頭を振る。 つまり、流されてこの島に辿り着いたと考えてもおかしくはない。 しかし、肝心の彼女はどこへ行ったのだ? まさか、この基地の人間に連れていかれたのではないか? 彼女とて女性だ。 筋骨隆々なゴツい男の手にかかって―― 「う、うわぁっ!大変だ!」 「何が大変なのよ」 「そりゃ、あの女がムキムキな男達に揉みくちゃに…っおぉ!?」 後ろから彼女の声が聞こえたので慌てて振り向いてみる。 それは、ぼろ布一枚を身体に羽織った状態だった。 「……私には『早良葵』という名前がある。あなたに『女』呼ばわりされる筋合いはないわ」 『早良葵』。そういえば名前を知ったのは今が初めてだ。 「わ、悪い…てか、服はどうしたんだよ」 「ベタベタ。とてもじゃないけど、着れたもんじゃないわね」 見る限り、葵の右手に握られている拳銃も濡れて使える気配はなかった。 しかし、濡れたショートヘアーがしっとりとしていて、それがまた淫靡な感じを醸し出している…それをずっと見ていた明の顔がいつの間にかにやけてしまっていた。 「何よ…変な顔でこっち見て……」 「あぇ?あ、いやいや…しかし、これからどうすんだ?」 「合流地点からどれくらい離れているかも分からないし、通信機も壊れちゃったからね。どうしようもないわ」 「どこに行こうとしてたんだよ?」 「……それは、言えない」 この質問には頑なに口をつぐむ彼女を見て、明は、 「いい加減にしろ!そんなに俺が信用出来ないのか!」 「出来ないわ。……悪いけどね」 「そうかい。なら、もうお前と話す事なんてないね。俺は泳いででも帰るからな!」 そういえば荷物も見当たらない。 しかし、そんな事もお構い無しに、明は海へと走り出した。後ろから葵の呼び声が聞こえたが、そんなものは彼には関係なかった。 〜本部基地・発令室〜 「……からの連絡、途絶えました」 「確保した『少年』の無事は確認出来ないのか?」 「あちらからの電波が途切れている為、居場所は不明です」 「そうか……捜索隊に通達。『引き続きを捜索せよ』と」 「アイ。『引き続きを捜索』を通達」 突如からの通信が途絶え、基地内は騒然としていた。 少年の身柄だけは無事でなければならないのだ。 〜島・夕暮れ〜 明は明らかに不機嫌だった。 何故なら、彼は泳いで帰る事が出来なかったからだ。 無論、『普通』は帰れる距離ではない。 それに彼は――運動オンチなのだ。 以上の理由で彼は二十メートルも泳がない内に溺れてしまい、結局葵に助けられたのだ。 情けない事この上なし。 しかし明は、 「お、俺はな!やっぱり1人の女性を置いて帰るというのが人間として正しくないと判断したから残ったんだ!そ、それに決して溺れたんじゃないぞ。あれは息つぎだ。俺なりに考えた息つぎでなぁ――」 と、誰が聞いたわけでもない言い訳を必死になって喋っていた。 葵は無視して銃の分解整理をしながら考え事をしている。 (もしが私を捜しているとすると……くそっ、折角の初任務が台無しだわ) 「――ていう事だから、って聞いてんのか、こら」 呼び掛けるが、返事はない。 「……おーい?」 やはり返事なし。 「あのー、だいじょ……」 「五月蝿いっ!」 怒号。そして二人の壮絶な言い合いが始まった。 「あぁ!?折角心配してやってんのに、『五月蝿い』たぁどういうこった!?」 「そう思ったからそう言った。何がいけないのよ」 「な、何…!?」 「そもそも、あなたに心配されるほど堕ちちゃいないわ。ほっといてちょうだい」 冷たい言葉。これが明の怒りの火に油を注いだ。 「ほっ…可愛くねぇ奴だな!素直に『ありがとう』の一言も言えねぇのか!」 「感謝の言葉は強いられて言うもんじゃないでしょ!?」 「あーっ!やっぱり着いてきたのが間違いだった!てめぇみたいな性格ブスといると腹立つぜ!!」 「それはこっちの台詞!大体、何でよ!?何で初任務でこんな目にならなきゃいけないのよ!?何でっ……!」 「……早良?」 「もういいわよ、どうせ任務は失敗だわ。あなたは晴れて自由の身。私は……」 明は自分が馬鹿みたいに思えて、胸が締め付けられるような感じがした。 彼女は、自分には分からない、とても大きな物を背負っている。 使命感や責任感。そんなのよりも、もっともっと大きな何かを。 それに比べて、彼は―― (……くそっ) 目の前の葵は泣いているのだろうか。押し黙って俯いている為、それは分からなかった。 「あー…悪かった、悪かったよ」 「…謝られたって…どうしようもないじゃないの」 彼はふと思い付いた。 「任務がどうとか、言ってたな?」 「…それがどうしたのよ、今更どうこうしようたって…」 「いいから聞け。俺を指定場所に連れていけばいいんだろう?」 彼女は戸惑って、 「うん…」 「なら、俺に任せろ」 いきなりの提案に葵は返事が出来なかった。彼の顔を見る限り、冗談ではなく、本気だという事が見て取れる。 しかし、どうやって……? 「ここの基地に忍び込んでヘリを奪えば…」 「馬鹿な事言わないで!第一、百歩譲って忍び込めたとするわ」 「おう」 明が気のない返事をする。 「問題はその後よ!どうやって格納庫にあるヘリを動かすのよ!?私は操縦専門じゃないから無理、あんたはどうなのよ!」 こう言うと、明は胸を張って自信満々に答える。 「ふっふっふ、実は、操縦出来るんだなぁ〜、これが!」 「え…」 「親父がさ、小さい頃良く乗せてくれたんだよ。操縦もさせてくれた。朧げながら基本的な事くらいならまだ覚えてるからな」 親父――葵はそれが誰かを知っている。 しかし、これまで彼を見ていて、とてもじゃないが彼の父には似ていないと思っていた。 だが今は違う。 葵には明が彼の父と被って見えていた。そして、感じたのだ。 今なら信じても大丈夫なのではないか、と。 「……あんたの腕前、信じる。その代わり、絶対成功――」 「――するに決まってんだろ?いや、させてやるさ。……そんかわり、お前の力、借りるぞ」 「うん、じゃあ……行こうか。……明」 こうして名前を呼ばれたのは初めてだな――前を行く彼女を追い掛けながら、明は思った。 通路には警報が響いていた。後ろからも武装した兵士が追ってくる。 まさに『多勢に無勢』というのはこの状況を指すだろう。 そんな中を―― 「おまっ…そもそも武器を調達するとはいえ、見張りの腕捻るこたぁねぇだろ!?」 「五月蝿いっ!どうでもいいから早く部屋を見付けて……きゃっ!」 ――銃弾がすれすれに抜けていくような、絶対的に不利な戦場を、彼らは走っていた。 もっとも、重大な勘違いをしている事に気付くのは、もっと先の事ではあったのだが。 「格納庫はどこだぁぁぁぁっ……!」 3.戦う高校生 〜本部基地・発令室〜 「侵入者、逃走を続けています。中佐、以後のご指示を」 オペレーターらしき男性が命令を求める。 『中佐』と呼ばれた男――パイプを銜え、白髭がふさふさとしている――は、煙を吐いて言った。 「追跡を続行……いや、侵入の目的を探る為、追跡を中止。武装隊を帰投させろ。多少奴らを泳がせてみる事にする」 「アイ。『追跡中止及び帰投』」 オペレーターは通信機から命令を兵士に復唱する。 『中佐』は恐い顔をして相変わらずパイプから煙を吐いていた。 〜基地内部・第七通路〜 「……撒いたか?」 「そうみたい…」 偶然鍵が開いていた部屋に逃げ込み、追っ手を撒いたと思った二人は、同時に溜め息をついた。 しかし、ここは……? 「……何もないけど、何する部屋なんだろうな?」 「さぁ…だけど、隠れるには最適な場所のようね」 そう言って少しドアを開ける。何せ窓がない上に換気扇すら付いていない。 つまるところ、空気が悪いのだ。 「もう…暑すぎるわ……」 彼女は羽織った布の胸元をぱたぱた扇ぐ。 そのせいで明が目のやり所に困っていたのは言うまでもなかった。 開けたドアの外からは足音はしない。 「じゃ…行きましょう」 「おう」 とは言っても、二人は自分達がどこにいるのかすら分からない。 まさかどこかのデパートみたいに、現在地が描かれた地図があるわけでもない。 八方塞がり、とまではいかないが、途方に暮れながら通路を歩いていった。 〜本部基地・発令室〜 「中佐、侵入者は…どうやら武器庫へ向かっているようです!」 「ほう…まさか、たった二人でこの基地を壊滅させる気か……?」 侵入者は的確に武器庫への道を辿っている。このままでは奴らが武器を入手するのは時間の問題だ。 この様子では、この発令室の位置すら把握されているのではないだろうか……? 『中佐』の頭の中には最悪の状況が浮かぶ。 しかし、それを消し去るが如く頭を振り、オペレーターに力強く命令した。 「待機中の武装隊に通達!侵入者が武器庫に到達する前に殲滅させよ!!」 「アイ!『侵入者を武器庫到達前に殲滅せよ』!」 『中佐』パイプから一気に煙を吐き出して、言った。 「たった2人でこの基地を壊滅させようなどとは、見上げた根性だ……だが、の威信に賭けても貴様らを止めてみせようじゃあないか……!」 〜基地内部・第三通路〜 突如警告音が鳴り出し、同時に後ろから足音が聞こえてくる。 武装した兵士が式と葵を捕まえ――もとい、潰しに来たのは考えるまでもなかった。 「やば…走るぞ!」 「り、了解!」 彼らは一目散に走り出した。 しかし。 後ろから追跡してくる者達は、恐らく鍛えに鍛えられた猛者揃いだ。 すぐさま銃弾の雨が、横殴りに降り注いできた。 「うぉっ……早良!銃持ってんなら撃って威嚇しろ!」 「で、でも……」 「でも……何だよ!」 「私、まだ人撃った事ないよ……」 明は開いた口が塞がらなかった。絶体絶命である。 と、目の前に1つのドアがある。どうやらここを開けなければ先には進めないようだ。 「早良っ!ドアの鍵くらい…ブッ壊せるだろう!?今すぐやってくれ!!」 「了解っ!!」 葵が細い指をトリガーに掛けて、引く。 自動拳銃の銃口が一筋の火を噴いた。 一発ではなかなか壊れない。残りの弾も全て撃ち込む。 がしゃんっ、と、鍵は音を立てて派手に壊れた。 「行くぞ!」 一気にドアを開けて、抜けていく。 後ろから銃弾が飛んできたが、その前にドアを閉める。 たまたま近くに落ちていた棒のような物をドアに立てて、向こう側からは開けれないようにした。 武装兵がこじ開けようとするが、少しくらいなら十分持つだろう。 「ふぅ…何とかなったなぁ……」 と、不意に葵が明の袖をつまんでくいっと引っ張る。 「ん、どした?」 「う…後ろ……」 彼女は明の後ろを指差しながら言った。その声は多少ではあるが、震えている。 恐る恐る振り向くと、とんでもない光景が目に広がった。 「……何だ、これ」 ショットガン、ライフル、マシンガン、グレネード・ランチャー、ロケット・ランチャー、揚げ句の果てには炸裂弾、手榴弾、そして電気銃まである。 「ここ…武器庫よ……!?」 「武器庫……?」 「これだけの武器数……どう考えても、そんじょそこらのテロ集団じゃないわよ!?」 戸惑っている葵とは裏腹に、明は至って冷静に、落ち着いて言った。 「まぁ……いいや。どれか拝借させてもらうか」 「な、何で?」 「武器持ってりゃ力負けしないだろ?俺は…よし、こいつだ」 と言って彼が手にしたのは、電気銃だ。 この兵器は二〇〇〇年代に使用禁止になった物で、威力はスタンガンを遥かに上回る。 時には死に致る場合もある代物である。 そんな危険な物だとは分かっていない明はこれを選んだのだった。 一方、葵が手にしたのは……結局、自動拳銃である。 しかし、これも侮るなかれ。 リボルバーを回す必要がなく、勝手に次弾を装填してくれる為、トリガーを引けば弾が出るようになっている。 更に、偶然にもその拳銃は演習用ゴム弾が入っていた。 ゴム弾は大して殺傷力がないので(もちろん大怪我はするが)、相手を死に致らしめる事もないのだ。 「おっしゃ、行くぞ」 「……あんたねぇ」 扉の向こうには、数人の武装兵が待ち構えている。 今開ければ一瞬にして、蜂の巣にされてしまうであろう。 それを明に言うと、彼は何やら不敵な笑顔を覗かせる。 「んっふっふ。開けたら取り敢えず、これを使って取り巻き吹っ飛ばすぞ」 と言って、ポケットから出したのは、手榴弾だ。 しかし、これは爆発などはしない。 ピンを外すと、辺りは強烈な光に見舞われ、視界を封じたり、気分を悪くしたり出来る『スタン・グレネード』という代物なのだ。 だが、彼女はふと疑問に思う。 いくら彼にこれほどの行動力があるとはいえ、何故武器を的確に選ぶ事が出来るのであろうか? 「分からない、って顔してんな?」 「……それは、誰だってそう思うわよ」 「俺も分からん!」 葵は一瞬、駄目かも知れないと思った。 しかし、行動しなければ始まらない。 葵は覚悟を決めた。 「……了解」 「んじゃ、行くぞ。いっせぇーの……!」 扉を開けて、スタン・グレネードを投げる。 予想外の明の行動に、武装兵は為す術がなかった。 「うわっ……!?」 もちろん、これを使った張本人らは目を閉じていた為。大丈夫である。 「早良!走るぞ!」 「了解!」 一気に狭い通路を駆け抜ける。後ろから銃声が聞こえたが、視界を奪われている彼らの射撃は正確なはずがない。 ない――はずなのだが。 「うっ…!?」 突如葵が倒れ込む。右肩からは血が出ていた。 どうやら一発だけのようだが、銃弾が当たったらしい。 まさか、あの屈強な男達にはスタン・グレネードすら効かなかったのだろうか……? 「大丈夫か!?」 明が肩を貸す。しかし、 「大丈夫……」 そう言って、後ろの男達に向かって数発のゴム弾を叩き込む。 左手1つで撃っている為、命中精度は下がっていたが、それでも十分な牽制になった。 「……行くわよ」 「お、おう」 彼らが怯んでいる間に葵はぎこちなくも走り出す。その姿が明には危なっかしく見えて、落ち着いていられなかった。 〜本部基地・発令室〜 彼は焦りを見せ始めていた。 流石に二人だけなら簡単に鎮圧出来ると思っていた。 それなのに。 苛立ちを抑えて銜えていたパイプを噛みちぎり―もちろん、抑え切れていない―こう言った。 「……奴らを格納庫に陽動しろ」 「……は?」 オペレーターは思わず聞き返してしまう。 「格納庫におびき寄せるのだ。"Phantom"を起動させておけ。OSは…そうだな、自動プログラムを使用しろ」 「し、しかし…」 「私は『お願い』したのではない。『命令』をしたのだよ」 「………」 「それとも、『命令』は聞けないのかね?」 「……アイ。復唱します。『侵入者を格納庫へ陽動後、"Phantom"を起動』」 些細な侵入から始まった基地内は、既に戦場と化していた。 どれくらい走ったかは分からない。 が、自分達がどこへ向かっているのかは分かっていた。 「奴らを格納庫へ行かせるな!」 後ろから聞こえた声。 つまり、この道を行けば、確実に目的地には到着するのだろう、と、明は思った。 事実彼らは格納庫に向かっているのだ。 ――いや、追いやられているというべきか。 しかし、そんな事も分かるはずもない彼らは息を切らして必死に走っていた。 〜本部基地・発令室〜 「ふむ……」 新しいパイプを銜えたまま、感心の声を漏らす。 「中佐、どうかなさったのですか?」 「いや…それよりも"Phantom"の起動準備は後どのくらいだ?」 「関節駆動部良好、メイン・サブコンデンサー、オールグリーン。ニトロ・ギアエンジン作動まで600秒」 発令室は皆が忙しく動き回っていた。 無理もない、たった二人の為に『陸戦用機動兵器』を基地の格納庫で戦闘させようというのだから。 歩兵戦に使うような武器程度では、効果がない。 そんな兵器に、ちょっと武装した侵入者が勝てるわけがなかった。 「ふ…今に見ていろ。身の程知らず供が」 大量の煙を吐いて、彼は言った。 4.Battle Cry 〜基地内部・第一通路〜 「……ふぅ、撒いた…か?」 もう後ろから声は聞こえてこない。 だがむやみに安心は出来ない。さっきもそれで葵は怪我をした。 「早良、肩は……」 と、明の顔の前にわざわざ怪我をしている方の手で言葉を遮り、 「この通り、大丈夫よ。平気だから」 「お、おう」 どう考えても大丈夫には見えない。 多量の出血、疲労困憊。 加えて、慣れない場所での逃走。 普通の人間なら、とうの昔に倒れているだろう。やはり軍人だけある、というところか。 と、少し歩くと今までとは比べ物にならない大きさの扉に辿り着いた。 鍵もかなり頑丈そうだ。 「早良、まだ弾残ってるか?」 「うん」 「よし、この鍵に全弾ぶち込め」 「……ちょっと待って、開いてる」 押してみると簡単に開いた。統率の取れていない部隊だとしてもこれほどの初歩的な事を忘れるとは思えないが……? 「ま、まぁ開いてるならそれで越した事はないな。行くか」 「了解」 ぎぃぃ……と、細い通路に鈍い錆びた音が響く。 それはまるで、動物の断末魔の悲鳴にも聞き取れた。 「これ、何だ?」 まず、扉を開いて入った一言だった。 ここは確かに格納庫には違いない。 しかし、これは何だ? いや、『これ』などという形容は合わない。 目の前にあるのは――巨大な人型のロボットなのだ。 〜本部基地・発令室〜 「現時点でのニトロ・ギアエンジン、60%を維持。やや不安定です。実動時間は1800秒。それ以降は活動不能になります」 「構わん」 オペレーターは思わず溜め息をつき、こう言った。 「……また本部からお叱りが来ますね」 「…言うな。たかが報告書程度、皆で書けば何とかなる」 とは言うものの、彼のこめかみには脂汗が滴っていた。 相当暑いのか、内心焦っているのか……言うまでもない。 「……おほんっ、では…"Phantom"起動!」 「アイ。『"Phantom"起動』!」 〜基地内部・格納庫〜 「お、おい……動き出したぞ……!?」 彼らの十倍はゆうに超えているであろうその巨体をゆっくりと動かし、腕を向けてくる。 「腕……?」 明は何となく真似るが、良く分からない。 「……はっ!明、逃げるよ!」 「は?逃げるって――」 言い終わらない内に明は葵に腕を引っ張られて、目の前の巨大ロボットの腕の前から走り出す。 その瞬間―― ドカンッ、と耳をつんざくような爆音が響いた。 今さっきまで彼らがいた場所は、えぐられていた。 後少し葵の反応が遅ければ2人共々吹き飛んでいただろう。 「ふざけやがって……!」 手に持った電気銃で関節部分を狙う。 当たればそれなりの損傷は期待出来るはずだが――全く効果のない様子でロボットは向かってくる。 「くそっ…化け物め……!」 「これは、"Phantom"……?」 葵は呟く。 「"Arc"にしか配備されていないはずなのに……何で!?」 「"Arc"…?」 彼女は目の前で暴れている人型の兵器がここにはあるわけがない、と言いたいらしい。 しかし、これを止めるには何らかの方法があるはずだ。 ハイリスク、ハイリターン。 多分その言葉が今の状況だろう。 「早良、俺は真っ向から反撃する。その間にお前は後ろに回れ!」 「え…一体どういう――」 言葉を遮り、人型兵器が彼らに向かって40mm弾の雨を降らす。 二人はぎりぎりでそれを避けながら話を続ける。 「くうっ……!だから……とにかく後ろに回って…重要そうな部分に弾ぶち込めっ!」 「……了解!」 幸いこの化け物は明に狙いを定めていて、葵には目にもくれない様子だ。 「よし…!」 その内に後ろに回り込み、慎重に、そして迅速に値踏みする。 最も重要そうな場所…この"Phantom"にとっての弱点……なかなか決まらない。 彼女の選択次第では、明を命の危険に晒す事になってしまう。 葵は神経を総動員した。 (明…もう少し頑張って……!) 〜本部基地・発令室〜 「"Phaotom"起動から1200秒経過。後600秒で停止します」 ぴりぴりとした声でオペレーターが言う。 しかし、パイプを銜えた彼は、何故か落ち着き払った様子で、 「ふむ。では、今よりやつらを出迎えに行くぞ」 「アイ……え?」 「聞こえなかったのかね?武装部隊にも伝えたまえ」 頭の上に『?』でも浮かべていそうなオペレーターは思わず、 「……何故、出迎えるのですか?」 彼は、パイプから煙を吐き出し、不敵な笑みを浮かべ、言った。 「ふ…それはな――」 〜基地内部・格納庫〜 「早良っ……まだか!?」 ショット・キャノンすらも避けるという、普通の高校生では考えられない超反応を見せつつ、明は大声で叫ぶ。 が、彼女には聞こえていない様子である。 呼んだこれで五回目だ。 そして、かれこれ、二十分以上は逃げ回っている。もちろん電気銃で反撃するものの、一向に効果は見られず、往復として、40mm弾が飛んでくる始末だ。 息も切れてきて、大変、辛い。 心臓の鼓動がどんどん速くなる。 脚も痛い。こういう時に自分の運動不足が疎ましい。 しかし、明は眉間にしわを寄せて、言った。 「……っ、こんな…わけの分かんねぇところで…死ねるかぁぁぁっ!!」 手にした電気銃で、目の前の兵器の胸部を撃つ。 残っているエネルギーを全て撃ち込む。 すると僅かではあるが、その巨体が怯んだ。 それと同時に、葵も撃つべき場所を決めたらしく、トリガーに掛けていた指を引く。 当たったのは冷却装置。 実弾に比べれば威力のないゴム弾ではあったが、全弾撃ち込めば、流石に機体の動きが鈍く――いや、完全に動きが止まった。 「……お、終わったのか?」 「……そうみたい」 二人して思わず座り込み、胸を撫で下ろす。 しかしそれもつかの間、格納庫の扉が開いて武装隊が入ってくる。しかも先程の比ではない。 すぐさま彼らに向かって武器を構えた。 「お、おい……もう電気銃使えないぞ」 「こっちだって弾倉空っぽよ……」 万事休す。覚悟を決めようとしたその時。 「いやいや、まさか、この"Phantom"相手にあそこまで奮闘するとは……」 低い声。続けて武装隊の間を割って白髭をたくわえ、パイプを銜えた男が現れる。 「……あんたは誰だ?ここのリーダーみたいなもんかよ」 ぶっきらぼうに明が言う。 すると、男は『ふっ』と笑い、 「今はここを統率させてもらっている。…まあ、じきに新たな上官が任命されるがな」 「俺が知るかよ、そんなこと」 「いや。君に十分関係あるのだ、アキラ・タクマ」 明は目を見開いて驚く。 何故この男が自分の名前を知っているのか……? 「取り敢えず……"Arcadia"の本部へようこそ、大佐殿。私が中佐のマーク・フォックスです」 「………はぁぁっ!?」 「ここは…本部で……えと…明が大佐!?」 ――あれから半年。 普通の高校生であった宅間明は"Arcadia"……通称"Arc"の大佐に任命され、数百人の部下をまとめる存在になってしまった。 もちろん、そこに彼の意思はなく、強制的なものだ。 「では、大佐殿、ご指示を」 「あぁもう……マークに任せるよ」 そう言って彼は司令室を後にする。 「どちらへ?」 マークの言葉には振り向かず、手を振って、 「ん、学校。もうすぐテストだし。ヘリ、借りてくから。後から取りに来て」 と答えて出ていった。 「むぅ…仕方ない、では――」 あれから葵は別の任地へ旅立ったと彼は聞いた。 「傷も癒えてないのに……やっぱ軍人だな」 ヘリを巧みに操縦しながら呟く。 「あいつ、元気かなぁ……」 「当たり前じゃないの。私はそう簡単に死なないわ」 「それならいいんだけどねー。早良はどこの任地へ行ったのかなぁ……」 「東京の赤羽。取り敢えずはそこであんたの身を守る事になってるわ」 「へぇー………っおあぁぁああぁっ!?」 あまりに驚きすぎた為、ヘリが傾く。 しかし何とか持ちこたえる。 「はぁっ…はぁっ…!」 「危なっかしいわね、ホントに操縦出来るの?」 「そういう問題じゃないだろ!な、何でお前がここに!?」 「今言ったじゃない」 「そうじゃねーだろぉぉっ……!!!」 それから学校に着くまで、機内は険悪ムードのままだったが、明は内心ほっとしていたらしい。 海を橙色に染める夕日の中、相も変わらずヘリは飛び続けていた。 了.