コツコツコツ・・・。 足音とともに気配が近づいてきた。 教会の玄関が開く音が背後に響く。 「おや、マティン君今日も熱心にお祈りかね。」 教主が月明かりに照らされてキリスト像の前で祈る マティンを見て言った。 「はい、教主様。」 マティンがゆっくり立ち上がって言った。 「いつもならとっくに帰って母親の看病をしている時間じゃないのかね?」 教主が教会の戸締りをしながら言う。 「はい、しかし今日は何だかとても胸騒ぎがするのです、とても邪悪な物が此処に来るような気がして・・・。」 マティンがキリスト像を見上げて言う。 「ほぅ・・邪悪な物とは魔女のことかね。」 教主がマティンに近づきながら言う。 「はい、きっとそれは魔女です、魔女に違いありません。」 マティンが拳を握り締めて言った。 「そうか、でも今日はもう遅いお母さんも心配しているよ、早く帰ってあげなさい。」 教主がマティンの肩をポンと叩いて言った。 「・・はい、わかりました。」 マティンは間を置いてそういうと足の肘をはたいて教会を後にした。 『・・・・なぁ教会って此処でホントに良いのか?エマ。』 レンが教会の窓側で中を覗きながら聞いた。 声は極力小さくしている。 『どう見たって此処しかないでしょ?』 エマが呆れた口調で返す。 『あ、居たよ、きっとアレが教主でしょ?どうする?』 イヴが3人に聞いた。 『どうするって・・会って話すかボコしかないよねぇ・・。』 アミが頭をかきながら言った。 『何よそれ!?もしかして何も考えてないの!?』 怒りと呆れた感情がこもった言葉をアミにぶつけた。 『よし、強行突破あるのみ!』 レンがどこか嬉しそうに言った。 『じゃぁ入ろう!』 アミもやる気まんまんに言った。 イヴとエマも頷いた。 ガシャーン!!!! レンが何を思ったのか大きな窓ガラスを足で思いっきり割って入ってきた。 「な、何だね君達は!?」 教主が吃驚して振り向いた。 「こんばんはー!」 アミが場違いな程の笑顔で教主に言った。 「こ、こんばんは・・。」 教主もつられてつい頭を下げてしまった。 「・・・じゃなくて!何だね、君達は!いきなりガラスを割って入ってきて!」 教主が怒って怒鳴りつけた。 「教主さん、質問です!魔女裁判で死刑になった人の財産はどこにいってるのですか?」 アミが何故か笑顔で言った。 「え?そ、それはぁ、神の為、貧しい人々の為に有効に使う為にこの教会への寄付金として・・。」 「苦しい言い訳だな、たくさんの金持ちが殺された筈なのに病気で薬も買えない人がごまんと居るのはどういうわけだ?」 レンはアミとは対照的に低く恐ろしい声で教主に言う。 「うっ・・・・。」 教主が口ごもった。 「教主さーん!質問です!どうして魔女と人間の区別が付くのですか?呪いだとか黒魔術とか「呪われた」と言えばいいんですか?何か根拠があって有罪判決にしているのですか?」 アミが少しずつ抑えていた怒りを露にした口調で言う。 「どうせ自分の私欲の為だろ?どうだ、はっきりしろ。」 レンがさらに恐ろしい声で言った。 「ふ・・・ふふふふふ、そうだ!私は昔から貧乏でとにかく金持ちになりたかった!がむしゃらに勉強して村で最も慕われる職業の教主になったはよいが、思ったより ちっとも儲からなくてな・・、そんなときに突然村の奴等が魔女だとか呪われたとかほざき初めてチャンスだと思ったわけよ! 今では魔女の所為で母親が病気だから魔女さえ殺せば良いと信じてる熱心で純粋で馬鹿なキリスト信者の少女が毎日”お祈り”に来るまでになったぞ!」 教主が大声で言った。 「開き直った犯罪者は良く喋るというがホントだな・・・。」 レンが冷や汗を流しながら言った。 「おや、そこに居るのはずっと前離婚して母親に引き取られたイヴではないか?ならば君も始末しなくてはフィリップス家の財産は教会のモノにならないな!」 そういって教主が胸ポケットから銃を取りだしていた。 「まずはエマ、お前からだ。」 教主がそういって発砲した。 ドーン・・・−・・・− 「・・・・!!!?」 「マティン!?」 エマの前に突然人影が現れたと思ったら肩を打たれたマティンが倒れていた。 「あ!お前この間エマと一緒に居た・・・。」 レンがそう言いながらマティンに近づいた。 マティンはエマもレンも振り払って血まみれの肩を抑えながら立ち上がった。 「教主様・・さっきの話は本当なのですか!?私欲の為に・・財産の為に無実の人を殺していたというのですか・・!?なら・・なら魔女を殺してもお母さんは・・助からないのですか・・?」 震えた声でそう言うとマティンは力なく倒れこんだ。 「マティン!!?」 エマがそう叫んでマティンに近づいた。 イヴは呆然とただ立ち尽くしている。 「・・・・。」 暫く教主は無言だ。 「き、貴様!何か言ったらどうだ!?」 レンが瞳孔をむき出しにして声が裏返るほど叫んだ。 「こうなってしまってはしょうがない・・、「突然魔女が大勢で攻めてきて止む終えなかった」ということにしてお前達全員皆殺しにしてやるわ!!」 教主がそういってまた銃を向けた瞬間、突然ドアが開いた。 全員後ろを振り向く。 「隣町の警察だ、とあるメイドから話を聞いてな、此処では魔女狩りなどというふざけたことを行っているそうではないか?」 「メイ・・ド?」 エマが目を見開いて警察官たちを見た。 「今夜から魔女狩り調査を始めて偶然此処を覗きにきたのだが・・ちょうどいい、アームストロング・ギルズ教主、魔女狩りの元凶および殺人未遂として現行犯逮捕だ!」 警察のその言葉を合図にたくさんの警官を教主を押さえつけた。 「や、やめろー!違う!魔女は実在するんだ!私は無実だ・・!」 「あ・・マティン・・。」 エマの言葉を無視してマティンはゆっくり立ち上がってキリスト像の前に立った。 「何が・・神だ・・何が、正義だ・・・結局私はこんな奴の言葉を信じて大切な初めての友を憎んだ・・。」 「いいのよ・・マティン・・悪いのは全部あいつなんだから・・。」 エマはそう言って連れて行かれる教主を睨み付けた。 「君達、ご苦労だったな、さぁ君も早く肩の手当てをしないと・・。」 警察官がイヴの両肩を持って言った。 「おや・・・?君達は・・?」 もう一人の警官がレンのアミの顔をジロジロと見た。 「・・ぎくっ・!」 「やべッ・・・。」 2人が少しずづ警官から遠ざかっていた。 「隣町でも有名なこそ泥君達だね。」 警官がにやにや笑いながら2人の肩を掴む。 「ご・・・ごめんなさぃでした・・・。」 アミがどうしていいかわからず半泣き顔で警官を見上げながら言った。 「ふむ・・よし!君達に一つの任務を与えよう、そうすれば今までのことは許してあげるよ。」 「ほ、本当ですか!?」 イヴが警官に言った。 「それはね・・今から村中にこう伝えて欲しいんだ・・。」 「「「「何を?」」」 その晩、数人の少年達の月明かりに照らされた影とともに村中に何度も何度も こういう叫び声が響き渡った。 「魔女狩りは終わったぞー!!」 ********** 大きな屋敷の玄関が開いてある男が入ってきた。 「イヴー!エマ!ただいまー!」 「「おかえりなさい!お父さん」」 「ご主人様お帰りなさいませ、お嬢様達今夜はご馳走ですよv」 「「やったv」」    菓子屋。 「ほれ!キリキリ働かんかい!菓子のつまみ食いはするんじゃないぞ!」 「えー、おっちゃんー、僕等まだ子供なんだからそんなにきこ使うなよー。」 アミが笑いながら菓子を並べていた。 「何言ってんだアミ、泥棒までした俺等を雇ってくれた恩人だぞ文句を言うな。」 レンがアミを叱った。 「はーい・・。」 「こんにちはー。これいくら?」 少女の声が突然する。 「はいはーい、いらっしゃいま・・あっ、君は・・肩の怪我治ったみたいだねv」 アミが嬉しそうに言った。 「これ。いくらかしら?」 「1ポンドです。」 レンが言った。 「えー25ペンス負けてよー。」 「ええ、いいですよ、最近”お金持ちの双子のお嬢様”がよく来て買ってくれるから儲けがいいんですよ。」 アミがにやにやしながらわざと他人行儀に言った。 「ふふ、そうなの、私もその双子のおかげでお母さんを医者に見せることができたわv」 レンもにやにやしながら返す。 「へぇー、それは奇遇ですね。」 「セーラムの魔女狩り」END