セーラムの魔女狩り(鬆作) 1431年百年戦争、フランスを開放した英雄の少女、ジャンヌ・ダルクが魔女裁判にかけられ火刑になった。 1485年に『魔女の鉄槌』という本が発行され,州中に魔女(妖術使い)という存在の定義が広まった。 そして 1633年、魔女狩りという名の無差別殺人に幼い少女と少年達が巻き込まれることになった。 「セーラムの魔女狩り」 まだ昼なのに、夕方のように感じさせる程暗い山奥にその小屋はあった。 「寒い・・・。」 無意識なのか寂しさをまぎわらす為なのか、薄暗い部屋の中のホコリっぽいベットに寝ていた少女が呟いた。 顔に血の気は少なく瞳に光は入っていなかった。 ゴトッ・・。 外からドアを開けたような音が聞こえた。 一瞬目を見開いて外の気配を全身で感じ、少しずつ部屋に近づいてくる足音にだけ耳をすませた。 その気配の正体がわかるぐらいまで少女がいる部屋に足音が近づいてくる。 だんだんと暗く闇で閉ざされていた少女の瞳に光が差す。 気配がドアの前まで来た。 ガチャッ 「よぅ!あいかわらず不健康そうな顔だなイヴ!」 「よぅよぅ、大好きなお兄様達が帰ってきた時ぐらい元気そうな顔しろよ!」 最初に少女の名を呼んだ少年は16、7歳ぐらいの容姿に、まだ幼さを残した顔立ちをしていた。 もう一人の少年は14、5歳ぐらいで頭の中心に立った髪の毛がよく目立つ。 上半身だけ起こす。 「もう・・これでも精一杯元気そうに見せてるんだよ!」 少女が笑いながら儚い声で2人に言い返した。 「でも声は辛そうだな。」 小さい方の少年が言った。 「よし!これから俺様特性の兎肉入りコンソメスープとパンを焼いてやるからな!」 そう言って、つい先程仕留めたらしい兎を自慢げに見せた。 「そう、良かったわ、今日は街に行ってお肉屋さんから盗まなかったのね。」 イヴが少し皮肉をこめて言った。 「僕等もいい加減有名になってきたから泥棒もしづらいんだよ。」 小さい方の少年が苦笑しながら言った。 「そぅそぅ!「親に捨てられた乞食の子供が食べ物屋を騙しては盗み回ってる」って。」 「親に捨てられてなんかいねぇのに!そこそこ顔も売れてきて騙まし討ちもできたもんじゃねぇよ・・」 「もう・・・あんまりやり過ぎないでよ、兄さん達が捕まったら私はどうすればいいのよ。」 少女が伸ばしていた両足だけをベットから出して座る体勢にした。 「大丈夫!いくらあいつらでもこんな山奥に小屋があるってことさえ知らないだろ。」 年上の少年が自信満々に言った。 「まぁ・・そうだけど・・。」 イヴが不満気に言った。 「兄ちゃん〜とりあえず飯作ろうぜ、俺腹へった・・そういや兄ちゃん料理できたっけ?」 「そりゃできるさ!まかせろっ。」 マサチューセッツ州、セーラム村。 「エマ!エマは居るか?ただいま。」 スーツを着た中年男性が必要以上に大きな音を立てながら玄関を開けた。 その屋敷はまるで童話の中のシンデレラの屋敷のように天井には大きなシャンデリア、床にしきつめられた豪華な赤い絨緞、玄関のすぐ左ナナメ横にある螺旋階段はスカートの裾をチョコンとつまんでドレスを着たお姫様が上品に微笑しながら降りてきそうだ。 「父さん!?」 玄関のすぐ左斜め横にある螺旋状の階段の上から少女の声が聞こえて来た。 ドアを開ける大きな音とともに少女が螺旋階段から姿を現しあっというまに父親と呼んだ中年男性に飛びついた。 「お帰りなさいっvどうしたの?3週間は帰れないって先週言ってたじゃない?」 少女は嬉しそうに父親の顔を見上げながら言った。 「手品の公演が中止になったんだよ、それよりエマ、綺麗なドレスならたくさんあるのに そんな男の子みたいなズボンなんか履いて・・」 確かにエマの格好は童話に出てきそうなこの屋敷とは全然釣り合わない格好をしていたが父親が言うほど男性的ではなく全体の雰囲気からも女性らしい気品が溢れていてエマの育ちの良さがよくわかった。 「だってあんな大きなスカートだと動きにくいんだもん。」 エマが父親に甘えるように言った。 「まったくエマは・・少しは女の子らしくしてみたらどうだい?」 「嫌よ、それより今日はどこかに連れて行ってくれるの?もう何年も父さんと遊んだこと ないのよ。」 エマが大きな青い瞳から強い眼光を放って父親に言う。 「いや・・それがなぁ・・・父さんまた・・。」 父親は決まり悪そうに口篭った。 エマは父親の様子からすぐに無理だということを悟って今にも泣き出しそうな表情で俯いた。 「あっ・・いや・・そのなぁ・・」 なんとか弁解を考えているがそれが逆効果だったらしくエマはさらに俯いたが無理矢理自分を押さえつけながら言った。 「そう・・またお仕事なのね・・」 エマの瞳は心なしか濡れていて唇をかみ締めていた。 「ごっ、ごめんなエマ!今回の仕事が終わったら今度こそ父さんと 馬車に乗って出かけよう・・!」 父親が必死でエマをなだめようと言った。 「いいのよ、父さんは魔術師なんじゃないかとうたわれるとほど有名なマジシャンだもの、娘と遊ぶ時間なんてないわよね。」 エマが下を向いて自分に言い聞かせるように言った。 父親が困りきった表情で娘の頭を強く撫でて言う。 「じゃ、じゃぁ父さんは次回の公演の準備をしなきゃいけないから・・。」 父親はそういって一階の仕事部屋らしきところに入ってしまった。 エマはため息をもらして、とぼとぼと階段を上がり部屋に篭ってしばらく出てくることはなかった。 「どうだ!俺様特性料理は!」 少年が自慢気に胸に親指を当てて言った。 「私が元気だったら目ん玉飛び出るまで蹴り飛ばしたくなるほどの料理ね・・。」 イヴが折れ曲がりそうなぐらいスプーンを握り締めてこれでもかというほどの皮肉をこめた笑顔で言った。 「兄ちゃん・・やっぱ鍋に水いれて1回水で洗っただけの兎の肉(生)とマヨネーズ(大量)と 野菜(草)を入れて煮込んだだけじゃおいしくならないよ・・・。」 アミがスープを一口だけ無理矢理飲んでから言った。 「マヨネーズ!?」 イヴが少し怒りが篭った声で言った。 「そうだなアミ・・今回ばっかりは俺がまちがってたよ。」 兄が真っ青な顔でスプーンを机の上カチャンと置いて言った。 「もう・・レン兄さんがここまで料理駄目だったんだなんて・・何でマヨネーズなんか・・。」 イヴが青かった顔をさらに青くして机に右腕の肘をつけて頭を抱えた。 「いや・・コンソメがなかったから味も似てるし(実際は全然似てない)別にいいかなー・・って・・。」 レンが半笑いで言ったか口はひきつっていた。 「はぁ・・・。」 イヴは呆れ果てた様子で何も言わずにパンを齧った。 「イヴ・・今度は僕がちゃんとしたもの作るよ。」 アミが心なしか大人げた口調で言う。 「うん、でも盗みはできるだけやめてね。」 イヴが力なく笑って頷く。 「あーあー、こんな野菜のかわりに草を使わないで堂々と野菜を買えるようになりてぇ・・」 レンが両手を後ろ頭に回してイスに背中をあずけながら言った。 「お仕事なんて簡単に見つからないわよ・・」 イヴが切なげにまたパンをかじった。 「でも早く僕等でも雇ってくれるような所探さないとイヴは病気だし 僕だってちゃんとした物食べたいし・・。」 アミが唇を尖らせて言った。 「何言ってんのよ、私は病気じゃないわよほら、こんなに元気だし ちょっと風邪が長引いてるだけよ。」 イヴが笑いながら明るく言った。 「おめぇ・・ただの風邪で普通1年以上もセキは続かねぇぞ・・。」 レンが強い口調でイヴに言った。 「それは元から病気がちなっ・・・・・・。」 イヴが反論しようとしたら突然セキが出て苦しそうに口を押さえた。 「おっ、おぃっ大丈夫かよ?」 アミが慌てて立ってイブの横に行った。 「だいじょぅ・・。」 無理に喋ろうとしてまた肺が痙攣して無理矢理空気を出そうとしているような見るだけでも苦しくなりそうなセキが続いた。 「ほら・・言わんこっちゃねぇ、さっきから苦しそうだったし・・。」 「兄ちゃん!それよりイヴ寝かせようよ、何か熱っぽいし・・。」 アミがイヴの顔を覗き込んで言った。 「けほっ・・こほっ・・あり・・がとっ」 玄関に置いてある大きな鏡を覗いてネクタイを整えた。 「それじゃぁ・・エマ、父さん行ってくるからな・・・。」 大声と言うわけではないがよく通る声で階段の一番下から2階に居るエマに向かって言った。 返事は、ない。 「はぁ・・・。」 重そうなカバンを持ち上げて外で待っている馬車のところまで行ってしまった。 軽くドアを2回ノックして開ける。 「あの・・お嬢様、お父様のお見送りはよろしいのですか?」 メイドが気まずそうに言った。 「いいの、いつも帰ってきてすぐ行っちゃうんだから・・。」 エマは部屋のいかにも高級そうなベットの上に仰向けになって子犬のマルチーズを抱きながら言った。 「そうですか・・、あ、では私と一緒にお買い物などいかがでしょうか?ずっと部屋に篭ってたら腐ってしまいますよ。」 メイドがエマに元気になってもらおうと笑顔で言った。 「嫌よ、外なんて・・こっちは全然知らない人からあのマジシャンの娘だろうーとか手品はできるのかーとか・・。」 子犬はエマの手から離れてベットから降りた。 「それほどお父様が有名な証拠ですよvそれにお嬢様だって踊り子のお母様によく似ておられてとても綺麗な顔立ちをしていますし髪の毛を整えてもっと綺麗な洋服をお召しになれば世の中の男性はほっておきませんよ。」 メイドが近づいてきた子犬を撫でて高そうな碗に入った餌を与えた。 「別に好きであんな人に似て生まれたんじゃない。」 子犬が餌の匂いを嗅いで食べ始めた。 「そんな・・いくら先立たれたからってあんな人呼ばわりはいけませんよ。」 「あの人だってそうだ・・私とまともに遊んでくれたことなんてないもの、勝手に病気なんかで逝ってしまって・・。」 エマがとうとう枕に顔をうずめてしまった。 「・・・・ほら、お嬢様。気分転換にもなりますし、お父様がまたお土産に綺麗なお洋服を置いていってくれたんですよ、まだ一度もお父様が買ってくれたお洋服を着たことがないでしょう?明日は私も休日ですし一緒に出掛けましょうv」 数十秒間、エマは黙りこんだ。 メイドはクスッと笑ってエマに近づき、顔を覗き込んだ。 「・・・うん。」 全身が痛い。 頭がクラクラする。 此処はどこ? 「・・この・いっ・い・・・だ・れ?」 あれ?兄さん達・・? のわりには何だか顔が少し幼い・・。 それ以上ものを考えられない。 痛みが消えたかわりに全身がしびれてきた。 自分の手足がどこにあるのかもわからない。 まつげには赤い液体がついていて周りがよく見えない。 「あそ・・だ!お・・・え!」 大人の男の人たちの声が聞こえてきた。 何故かそれに物凄い恐怖を覚えて頭は逃げようとするが体が言う事をまったく聞かない。 「とりあえず・・・つれ・・逃げ・・・う・・!!」 少し高いが確かにレン兄さんの声が聞こえて意識がとぎれた。 真っ暗。何も見えない。 「イヴ、イヴ!大丈夫か?」 聞きなれた声がする。 「ん・・・・?」 段々視界がはっきりしてきて二人の顔が見えた。 「兄さん達?・・ハッ!」 完全に目をさましたらしく大きく目を見開いて何故か自分の顔の上に見えるレンとアミの顔を順に見た。そしてようやく自分がベットで寝ていることに気付いた。 「良かったぁー・・イヴったらずっと気絶してたんだよ。」 アミが心底ホッとした様子で言った。 「たぶん栄養不足による貧血だろ、じゃぁ今度はちゃんとしたスープ作ったから暖めて持ってくるな、無理でも食え。」 「うん・・、ありがと。」 レンはニカッと笑って早足で台所に向かった。 「もうホントにびっくりしたよー、いきなり倒れるんだもん。」 「私・・どんぐらい寝てたの?」 イヴが辛そうに頭を抑えながら言った。 「え?4時間ぐらいだね、もう夜の11時だよ。」 アミが壁にかかってあるこの小屋の唯一のボロボロのいつ壊れてもおかしくなさそうな時計を見て言った。 「そう・・何だか凄く怖い夢を見てたの・・・。」 「どんな?」 「よく覚えていないけど凄く全身が痛くて・・男の人達の叫び声が聞こえてきて少し幼い兄さん達に連れていかれる夢。」 心なしかアミの表情が引きつった。 「な、何だよそれ!変な夢だな〜・・。」 口は無理に引きつって目は笑っていない。 「・・?だって夢だもん、ただの夢。」 イヴが不思議そうに言った。 ガチャッ・・・。 戸が開いてスープを持ったレンが入ってきた。 「ほら、暖かいスープだぞ、今夜は冷えるから冷めないうちに飲めよ。」 レンがそう言ってベットの横のテーブルにスープとスプーンを置いた。 「飲み終わったら寝ろよ、もう遅いし。」 「うん、わかった。」 翌日。 「ほら!お嬢様、凄くお綺麗ですよ!」 メイドがフリルがたくさんついたお姫さまのような服を着たエマをベタ褒めした。 実際元々顔立ちが良かったエマが綺麗な服を着ると見違えるように美しくなった。 メイドが満足そうにエマの背中まである髪をといだ。 エマはメイドの心情とは裏腹に鏡の中の自分を睨んでは目をそらして異様に長いAラインの姫袖を邪魔そうに降りまわした。 「何だかとても動きにくい服ね。」 つい愚痴をこぼした。 「お嬢様、お嬢様は今までみたいに動き回らなくても何でもお手伝いである私がやりますのでこれくらいの服がいいんですよ。」 メイドがくすくす笑いながら言った。 「・・・そんなんだと牛になってしまうわ。」 まだ不満そうに言った。 「そうですね、だからこれからはもっと外に出て綺麗な道を歩きましょう。」 メイドがクシをミニテーブルの上に置いた。 タンスからリボンがたくさんついたヘッドドレスを取り出しエマにつけた。 「さぁ、出掛けましょう!お嬢様はどこに行きたいですか?」 凄く嬉しそうにエマに聞く。 「・・・外のことなんてよく知らない・・貴方にまかせるわ。」 「まぁ、お嬢様ったら・・・なら商店街を歩いてみませんか?」 エマの顔を覗き込みながら聞いた。 「しょう・・てんがい?何それ。」 エマがきょとんとした表情で聞いた。 「そっか・・お嬢様はよく知りませんよね、一般の方々が経営するたくさんの小さなお店が並んだ通りのことですよ。」 「どんなお店があるの?」 エマはまだピンとしない様子で聞いた。 「そうですねぇ〜・・たくさんの果物やとっても安いお洋服にお肉もありますしアクセサリーやお菓子も売ってますよv」 メイドが思いつくだけエマに教えた。 「・・・楽しそう。」 エマがボソッと言った。 とたんにメイドがチャンスと言わんばかりに言った。 「ええ、とっても楽しいところですよ!私なんか週一で通ってますし、人々もとっても優しくて親切でとてもあたたかいところですよ!」 「うん、・・・じゃぁ行ってみるわ。」 まだ気が進まない様子だかエマはとりあえず行く事にした。 「イヴー!起きたかー?もう昼だぞー!」 外からレンの声がして目を覚ました。 「う・・うん・・・?」 上半身をゆっくり起こして両目を擦った。 まだ頭がの中がぼやけていてボーと壁を見つめた。 ノックの音が2回して戸がゆっくり開いてアミが顔だけ出した。 「イヴー、僕たちまたちょっくら”仕事”に行ってくるからな。」 「・・・また、泥棒するの?」 「しょうがねぇだろ食べ物も昨日のスープが最後だったし、ずっと兎の肉なんて食って祟られたら怖いしさ。」 「うん・・収入なくても早く帰ってきてね。」 「おぅ!絶対帰ってくるかんな!イヴは何が食べたい?」 「そうね・・、りんごが食べたいな。」 「わかった!山ほどもってきてやる!」 アミが明るく笑って言いドアを閉めた。 「うん・・行ってらっしゃい。」 イヴがか細い声で言ってドアに向かって手を振った。 「わぁ、見てみて!とっても不思議なお菓子がたくさんあるわ!」 エマが目を輝かせて言った。 「お嬢様の目には一般のお菓子は珍しく映りますよね。」 「見て、このマカロン!とっても奇抜な形だわ。」 珍しそうに菓子屋の菓子をみながら言った。 「ま・・・まかろん??」 店主が首を傾げて言った。 「まぁ、お嬢様ったら・・それはただのパンの生地を砂糖をかけて揚げただけの駄菓子ですよ。」 くすくす笑いながらエマに教えてあげた。 「お嬢ちゃん、君どっかのお嬢様かんね?良かったらいっぱい買っていってくれよ。」 店主がエマに言った。年配なだけにマジシャンの娘だと気付かなかったらしい。 「どうします?お嬢様。」 メイドがまだ笑いながら聞いた。 「そうねぇ・・。」 エマが目を泳がせて初めて見るものばかりのお菓子を見た。 突然横に気配がする。 「ねぇおっちゃんこれいくら?」 エマ達を得に気にすることなくその少女は揚げパンを指して言った。 「一袋で1ポンドだよ。」 店主が言った。 「えー、25ペンス負けてよおっちゃん!」 「悪いねぇ、こっちもやりくり大変だから負けるわけにはいかんのよ。」 その少女はとても綺麗とは言いがたい安そうなズボンに所々ほつれた編み物性の上着を着ていた。サイズが少し大きくて肩が見えている。 エマはなんとなく自分とは全然違う世界の匂いがするその少女が気になって 暫くその同じ年ぐらいの11ぐらいの少女を見つめた。 「ん?」 その少女もエマの視線に気付いたらしくエマを見た。 暫くエマを見つめて少女はハッとした。 「あー!!あの有名マジシャ・・・もごっ・・・。」 慌ててメイドが少女の口を押さえた。 「シー!」 周りがこっちを見たがすぐに皆目をそらした。 「今日は久しぶりのお嬢様のお散歩なの、だまっててくれる?」 メイドが優しく少女の耳元で言った。 少女は息苦しそうにこくこくと頷いた。 「よしv」 そういってメイドはゆっくり手を離した。 「もう吃驚したぁー、まさかこんな貧乏臭い商店街でしかもこんな貧乏くさい店でこんな貴族に会えるだなんて・・。」 「貧乏臭いとは何じゃ!」 店主が少女に怒鳴りつけた。 「あははっごめんごめん。」 エマがそんな二人をみてくすくす笑っていた。 「へぇ〜、以外。」 少女がエマを見て言った。 「何がです?」 エマは意味がわからず首をかしげた。 「だってさ、噂ではあの有名マジシャンの娘はとってもわがままで女らしい格好をしたがらない可愛くない人って聞いてたのに・・」 「まぁ!なんと失敬な!お嬢様にたいして・・。」 メイドが横で口を割ろうとした。 「まぁまぁ、でも実物はこんなに可愛くて綺麗な女らしい格好をした明るくて素敵な人だったんだねー、あたし何か顔はそこそこいいのに母親の世話ばっかりで綺麗な服も買えやしない!」 少女が愚痴っぽく言った。 「まぁ・・父親は?」 エマが聞いた。 「・・・死んだ。母さんまで寝たきりでさ、だから私が働いているの。」 少女が少し声のトーンを落として言った。 「そう・・。」 エマが下を向いて言った。 「・・・ねぇアンタさ、学校に行ったことある?」 少女がエマに聞いた。 「が、がっこう??」 「やっぱりないんだー!なら同年代の友達居ないでしょ?」 少女がエマにずいずい近づいて言った。 「まぁ!なんと侮辱的な!お嬢様は学校などに行かなくても特別な教育を受けているのです!」 メイドが少女に強く言い返した。 「あっ・・いやそんなつもりじゃないのよ、まぁ理由は違うけどあたしも学校行ったことなくてさー・・友達居ないんだよねー・・良かったら私と友達にならない??」 少女がエマの手を握って言った。 「・・・・友達?」 エマが目を見開いて言った。 「そぅ!友達v」 「あら・・そういうことでしたのね、素敵じゃないですかお嬢様。お友達ができたのですよv」 「・・・ええ!」 エマが目を輝かせた。 「私はマティン、カイルド=マティンよ。貴方は確か・・えっと・・フィリップス・・」 「エマ・フィリップスよ、よろしくv」 「・・うん!」 「なんとか振り切ったかな・・。」 息切れしながらレンが言った。 2人は商店街から外れた狭い建物の間の道に居た。 「やったね!これでイヴにお土産の林檎ゲット!」 「シッ、あんま大声出すなよ・・まだ近くに居るかもしんねぇだろ?」 レンがアミを叱った。 「あ、うん・・。で、どうする、もう帰る?」 アミがレンに聞いた。 「う〜ん・・肉屋からもたくさん頂いたしパン屋からも盗ったし・・。」 レンがアミの背中のリュックに戦利品をつめながら言った。 「あ!兄ちゃん、僕お菓子食べたい!」 アミが通りから見える菓子屋を指して言った。 「そういえば最近甘い物食ってねぇし・・、よし!やるか!」 「やった!」 まずいつもの手口でアミが客として口笛を吹きながら極力自然に菓子屋に近づいた。 「おっさーん、これいくら?」 アミができるだけ店主を遠ざける為に隅に並んである菓子を指して言った。 店主はおもわくどうりに隅のほうへ来た。 「これかい?これは・・・。」 「キャー!!!」 急に叫び声が響いた。 「しまった!」 レンが菓子を袋につめている所を客に気付かれてしまい女性客が叫んだ。 「何やってんだよ!」 アミが小声でレンに言って慌てて店主の目を隠した。 「何だい?今の叫び声は?」 店主が聞いた。 「女性客が”野良犬”に吃驚して叫んだんですよ。」 アミができるだけ自然な声で言った。目でレンに早く菓子をつめろという。 その隣では女性客が震えていた。 「では、何で目を隠すんだい?」 店主がまた聞いた。 「今はやりの手品です・・今マジック中でしてお見せできないんですよ・・。」 アミが必死で言い訳を考えた。 「ほぅ、手品はワシも大好きじゃ、して目を開けたらどうなるんじゃ?」 店主はしっかり信じた。 「ぇっとですねぇー・・・。」 アミが暫く口篭った。 レンは必死で菓子をできるだけ詰め込んだ。 ふとほかに菓子はないかと頭を回すと偶然視界にエマ達が入ってその姿を見た瞬間、固まった。 「イ・・イヴ・・・!?どんしたんだそんな格好して・・。」 レンはエマに向かって言った。 「何よイヴって・・私達は貴方のような下品な泥棒は存じません!」 メイドがエマとマティンをかばうように前に出て言った。 エマは恐怖で怯えきっているがマティンは平然としていた。 『何やってんだよ兄さん!』 アミは店主に聞こえないように言った。 「で、目を開けたらどうなるんじゃ?」 店主がもう一度聞いた。 「え?えっとですねぇ〜・・。」 レンはなんとか菓子を詰めおわってアミにOKの合図をした。 アミが頷づく。 「こ・・・こうなってんだよボケジジィ!!!」 アミは店主から手を離すと同時に走り出してレンも後を追った。 「・・・・ど・・泥棒ー!!」 「ただいまー!イヴ。」 アミがドアを勢いよく開けて言った。 イヴはリビング(といっても小屋の中で一番広いだけの小汚い部屋)でイスに座って読書(拾い物のボロボロの本)をしていた。 「なんだよ、具合悪いのに本なんか読まずに寝とけよ・・。」 レンが心配そうに言った。 「もう十分寝たわよ、それより遅いじゃない!お腹が減って死にそうよ。」 イヴが本を閉じて言った。 「ごめんごめん、今日は肉に果物にパンに菓子まで取ってきたんだよ!これで一週間は出かけなくてもいいぞーv」 アミが満面の笑みで言った。 「またそんなに盗って・・。」 「なんだよ、イヴの為だぞ?ほら林檎も!」 「わぁ、おいしそう・・。」 イヴは罪悪感が残りつつも嬉しそうに林檎を見た。 「待ってろ!今剥いてきてやるからなv」 アミがそういって台所に入った。 「・・・・・。」 レンが難しそうな顔をして黙り込んでいた。 「どうしたの?兄さん、珍しく難しい顔なんてしちゃって・・・。」 イヴが冷やかし半分に言った。 「なぁ・・イヴ、お前さ、昔のこと覚えてるか?」 レンは重そうに聞いた。 「え?あんまり覚えてないけど、私達は親に先立たれて親戚も居ないしいくあてもなくて・・、この山奥に小屋を作ってなんとか泥棒をしながら暮らしていってるんでしょ?」 イヴが不思議そうに聞いた。 「その前・・その前のこと覚えてないか!?親の顔とか・・。」 「もうだいぶ昔だもの・・思い出せないわ・・・。」 「そうか・・ごめんな、変なこと聞いて。」 「・・・・・?」 「お嬢様、今日は色々ありましたね。」 メイドが風呂上りの少し濡れたエマの髪の毛を縛りながら言った。 「でも・・とても怖い目にあったわ・・。」 エマがゆっくり瞬きをして言った。 「でも素敵なこともありましたわ、友達もできました。」 「ええ、マティンはとても素敵な方よ今日は色々なことも教えてくれたわ。」 「でもお嬢様も流石です、「このままじゃ商品を買いなおす金もないし首を吊るしかない」って泣き崩れた店主さんに泥棒に取られた分だけの菓子代を上げた上にマティンさんにはお母様の薬代も差し上げたのですもの。」 メイドがとても関心している様子で言った。 「でも、それは父さんという存在があってこそできたのよ、私も貧乏だったら店主さんも見捨ててたし、マティンさんとも友達になる暇なんてなかったわ。」 「まぁ、正直なこと・・。」 メイドが笑った。 「何が可笑しいの?」 エマは不審気に聞いた。 「いいえ、お嬢様らしいなぁと思いまして・・。」 「・・・?」 エマが不思議そうに首を傾げた。 「さぁ、明日はマティンさんと思いっきり遊ぶのでしょう?お嬢様はあまり体が丈夫ではないので早くお休みになられて下さい。」 「ええ、そうするわ。」 翌日。 「こんにちわ、店主さん。昨日は散々でしたね・・。」 エマが昨日の菓子屋の店主に丁寧に挨拶した。 「ぉう、でもお前さんのお陰でこうして一日で前より良い菓子も揃ったしアンタは神様のようじゃ!」 店主がエマに嬉しそうに言った。 「まぁ、私にできることしただけです。」 エマが照れくさそうに言った。 「して今日はどうしたんじゃ?」 エマに聞く。 「お友達と待ち合わせを・・・」 「エマー!」 エマが言い終わる前に遠くからマティンが手を振って走ってきた。 「マティンさんv」 マティンの姿が見えた瞬間エマの表情が太陽のように明るくなってマティンのところまで走っていった。 今日はズボンなので動きやすそうだ。 「やだ!エマったら、マティンでいいわよv」 「あ・・、えっとマティン・・!」 「そうそうv」 2人が会話で和んでいたら突然回りがざわつき始めて周りの人々は一斉にひとつの方向を見ていた。 「嫌ー!!私は違う・・魔女なんかじゃない!!」 突然遠くから叫び声が聞こえた。 エマはビクッとして声が聞こえたほうを見た。 エマの目に映ったのはいかにも善良そうな女の人が警察に無理矢理連れて行かれるところだった。 「あれは・・何をしているの?魔女って何・・?」 エマが怯えた声でマティンに聞いた。 「そっかエマは知らないんだ、あれは”魔女狩り”って言うんだよ。」 マティンが回りに聞こえないように小声で教えた。 「魔女狩り?」 エマがつられて小声で聞く。 「お嬢さん魔女狩りも知らんのか?もう何百年も前から続いているんじゃよ。」 店主が言った。 「だから魔女狩りって・・?」 エマがじれったそうに少し声を大きくして言った。 「元々人間だった人が悪魔に心を売って黒魔術で人々に危害を加える悪い奴等のことだよ。最近じゃ錬金術師も魔女と言われて次々と捕まって”魔女裁判”に出されてほとんど火刑だって。」 マティンが女性が連れていかれた方向を見つめていった。 「あの連れていかれている女の人なんて黒猫を飼っていただけなのに・・。」 店主が悲しそうに連れて行かれている女性を見つめながらボソッと言った。 「そんな理不尽なことがずっと前から行われているの!?誰も止めないの・・!?」 エマが怒りの感情を込めて言う。 「シー!魔女をかばうようなことをいったらその人まで捕まるんじゃよ!」 店主が慌てて止めた。 エマは一瞬恐怖で固まって、周りを見回してから小声で言った。 「そんな・・・ひどすぎるじゃない・・。」 声はまだ震えている。 「でも魔女は始末しとかないと人間が滅びちゃうよ。」 マティンが本心なのか建前なのかわからないくらい無表情でいった。 「マティン・・・・。」 「さぁ!今日は思いっきり遊ぼうよ!」 「・・・ええ。」 「今日はどうでしたか?お嬢様。」 エマの髪をとぎながらメイドが聞いた。 「とっても楽しかったわ・・・けど・・。」 「けど、何ですか?」 「とても怖いことを知ってしまったわ。」 エマが震えた声で聞いた。 「まぁ、それは何ですか?」 メイドが聞いた。 「”魔女狩り”っていうの・・・・。」 ゴトッ 「どうしたの?」 エマが振り向くとメイドは持っていたクシを落としていた。 「・・・・お嬢様、最近お父様の忙しさは以上とお気づきでしょうか・・・?」 メイドが何故か震えた声で言う。 「・・・?そうね、今までずっと帰ってこなくてこの間帰ってきたと思ったらとても大きな荷物を持って行ってしまい、もうずっと帰ってこないわ・・・。」 父親の話題が出たとたん、エマは暗い顔になっていった。 「実は・・・お父様は・・・。」 「父さんは?」 「お父様は・・・・ ドンドン!!!ドンドン!! 「エマ!エマ居る?私よ!マティンよ!開けて、開けて!」 「あら、マティンじゃないどうしたのかしら、こんな夜中に。」 エマは部屋から出て階段を下りて玄関に向かった。 メイドも後をついて行く。 エマが戸を開けた瞬間マティンはエマの両肩を掴んで中に入ってきた。 「エマ!大変よ!貴方のお父さん、悪魔と契約したことを認めちゃって裁判は有罪判決だって!」 「は?」 エマは意味がわからず首をかしげた。 「マティンさん・・お嬢様は裁判のことを知らなかったんです・・。」 メイドが俯いてマティンに重苦しく言った。 「どうりで・・魔女狩りを知らないからもしかしたらって・・・。」 マティンがエマから手を離して下を向いた。 「ど、どういうこと?父さんが有罪って・・・。」 「お嬢様、さっきも言おうとしたんだけど・・・実は貴方のお父さんは魔女裁判にかけられていたのです・・。」 「父さんが!?なんで・・父さんは魔女なんかじゃない!!」 メイドが言いにくそうに続けた。 「今までずっと帰ってこずにこの間突然帰ってきたのは建前では仮釈放ですが実際は刑務所に入る為の準備しろということでして・・・もうほとんど有罪でしたから・・本来魔女は死刑ですが自白の場合は終身刑でして・・あの私はお嬢様をまかされていて・・その・・つまり・・・。」 メイドも動揺を隠しきれずに涙ぐみながら必死で喋る。 「もういい!やめて・・聞きたくない・・そんな、父さんが・・なのに私ったら笑顔も見せずにわがままいって・・・・どうして・・父さんが・・何にもしてないのに、もう会えないの・・。」 エマはそう言って力なく泣き崩れてしまった。 「と・・おさん・・。」 「あ・・あの・・私、それで・・。」 エマはしゃがみこんだまま動かない。 「近くの教会の教主様から聞いたのですが親が魔女の場合、子供も魔女になるから・・・。」 「・・・!?どういうことですの?まさかお嬢様も・・・。」 メイドが大声でマティンに問いただそうとした。 「はい・・・明日警察の方がエマを強制的に連れて行くと、教主様から聞きました。」 「・・なんてことなの!?お嬢様が・・そんな・・!!」 「いいわよ、もう・・、死刑でもなんでも受け入れるわ・・。」 「駄目です!お嬢様!お嬢様はなんとしてでも生きるのです!」 メイドが狂ったようにそう叫んだ。 「・・・一つだけ方法があるわ・・。」 「まぁ!それは一体どんな策ですの!?」 「まず、明日警察の方が来たときまでにはエマをどこかへやるのです。」 「そして?」 「私達はお互い手の甲にガラスを突き刺して(呪われた証拠)「魔女に呪われた」と警察に言うの。」 「それでは火に油をそそぐようで、逆効果なんじゃ?」 「いいえ、そしたら警察は100%私達の発言を信じるでしょう?被害者ですから。」 「ええ。」 「そしてエマが逃げた方向とはまったく違う方向を指すの!」 「・・とてもいい策ですけどお嬢様が見つからなかったら次は私達が疑われるのでは?」 「そのころには適当にキリスト信者になりきっていれば大丈夫よ!誰も魔女とは言わないわ。」 「マティン・・・。」 エマがやっと顔を上げて笑った。しかし大きな青い瞳には涙が溜まっている。 「友達、でしょ?」 マティンがそう笑いかけるのを合図にエマはマティンに抱きついて声を上げて泣いた。 「こほっ・・こほっ・・・。」 「イヴまたセキかー?」 アミがココアを2つ持ってリビングに入ってきた。 「あ、アミ兄さん・・おはよう・・こほっ・・。」 イヴが口を押さえてセキを無理矢理止めながら言った。 「最近日に日に弱ってきて飯もろくに食わずに・・・お前ホントに何かの病気じゃないか?」 レンが難しい顔をして入ってきた。 「うーん・・・それは違うと思う、体は元々弱いし・・けど最近頭が凄く痛いの、一週間ぐらい前から・・・。」 頭を抱えながら辛そうに言った。 「医者に見せてあげることもできないなんて・・。」 アミがため息をもらす。 「違うの、病気なんかじゃなくて・・・何か毎日変な夢見るの。」 「夢?」 レンがキョトンとした表情で言う。 「前話してくれた怖い夢?」 ココアを一口飲んで、聞いた。 「ええ、最初は前アミ兄さんに話したような怖い夢で、その後私が小屋の前に座ってずっと誰かを待ってるの・・。」 イヴが遠くを見つめるような目で言った。 「誰を待ってるの?」 アミが聞いた。 「・・わからない、わからないの。顔がないの・・その子・・。」 イヴが両手で頭を抱えて言った。 「顔がない?思い出せないってことか?」 レンがどこか落ち着かない様子で聞く。 「ええ・・、たぶん。」 両肘を机に付けて両手で頭を抱えた状態のまま返事をした。 「・・・・。まぁ!お前は疲れているんだよ、色々考えすぎてさ・・・。」 レンがイヴを元気づけるように言う。 「・・ええ、じゃぁそう思うことにする。」 「・・・・・・・ん?」 レンが急に窓のほうに振り向いた。 「どうしたの?レン兄さん。」 アミが不思議そうにレンを見た。 「今、人の声しなかったか?」 レンが両腕を組んで窓に近づいた。 「え、そんな、こんな山奥に・・。」 イヴが信じられないと言わんばかりの口調で言う。 「・・・だ・・・か・・せん・・か?」 「誰か・・誰か・・居ませんか・・お願い・・誰か・・。」 「ホントだ!女の子の声だぞ!?」 アミがそう言って慌てて外にいった。 レンも後を追う。 イヴも不安気にのろのろと後をおった。 「兄さん!レン兄さん!ちょっと来て!早く!」 外に出るとアミは見知らぬ少女座って支えていた。 「言われなくても行くって!」 レンがそういってアミにかけよった。 「そうじゃなくて・・この子・・!」 アミが青ざめた表情でその少女に視線を落とした。 「あっ・・・!?」 レンもかけよって少女の顔を覗いた瞬間、固まった。 「どうしたの・・?誰その子・・、遭難者・・?」 イヴがセキをしながらドアを開けて外に着た。 「イヴが・・。」 「私が?」 「「イヴが2人居る!!」」 「え・・・?」 イヴも少女の顔を見た瞬間叫んだ。 「私だ!」 ドンドン!! 玄関を激しく叩く音がする。 「フィリップス=エマ!フィリップス=エマ!悪魔と契約し、魔女に成り下がったことによるおよびキリスト教徒に対する侮辱行為で逮捕だ!観念しろ!」 家の中のマティンとメイドはお互いで合図しあって、同時に泣き声をあげた。 「どうした!観念しろ、子供でも魔女は魔女だ!」 そういって警察はドアを突き破った。 メイドとマティンはさらに泣き声を大きくした。 「ど、どうした?フィリップス=エマはどうした?」 「魔女に呪われました。」 「呪われました。」 2人は手の怪我を見せてさらに泣き声を大きくした。 「呪われただと!?大変だ、一刻も早くフィリップスを捕らえなければ!」 「お前達、魔女はどうした?」 もう一人の警察官が聞く。 「魔女は逃げました。」 「逃げました。」 さらに泣き声を大きくした。 「ええいっ!うるさい!して魔女はどこに逃げたのだ!?」 「北の方角へ逃げました。」 「逃げました。」 「よし!北だな!皆行くぞ!」 警官達がそう言ってあっというまに出て行った。 2人は警官の気配がなくなるまで泣き続けて 完全に気配が消えると2人目を合わせてニカッと笑った。 「やったー!大成功!」 マティンが立ち上がって嬉しそうに叫んだ。 「でも・・、お嬢様は大丈夫でしたでしょうか・・・。」 メイドが座ったまま下を向いていった。 「大丈夫!エマは強いは、木の根かじってでも生きるわよ。」 「まぁ!お嬢様が木の根だなんて・・!」 「例えでしょ、た と え!」 マティンは呆れてメイドに言った。 「そ、そうですか・・。」 「じゃぁ私達は教会に言って教主様に”呪い”でも解いてもらいにいきましょうか。」 マティンはニヤニヤしながらメイドに言ってメイドもくすっと笑って頷いた。 頭が回る。 「・・・・・?」 ぐにゃぐちゃした不思議な視界がだんだんはっきりしてきた。 「お、気がついたみたいだな。」 レンがエマの顔を覗きながらいった。 「・・ハッ!?」 バチーン!! 気持ちのいい平手の音が部屋中に広がった。 「いっでー!!何すんだよ!?」 レンが頬を両手で押さえてベットから上半身だけ起き上がったエマに怒鳴りつけた。 「貴方は・・この前の泥棒!!どうして・・・・??」 「どうしてと聞きたいのはこっちだよ・・、助けてくれた恩人を殴る何て君、いい度胸してますね。」 アミがニッコリと笑っていった。 「あ・・え・・・・?」 「エマ、貴方は昨日、この小屋の前で倒れていたのよ、覚えてないの?」 「あ・・、そうだったよね・・私・・・・・?って!何で私の名前しって・・!!?」 エマは顔上げてイヴの顔を見た瞬間、息をのんで凍りついた。 「わ・・私が居る!」 少し間を置いてエマが叫んだ。 「・・・やっぱり何も覚えていないわよね・・・私と貴方は双子なの。」 「双子!?」 エマが目を見開いた。 「だよなぁ、前もお前一度見たけど似すぎだし・・。」 レンが冷静にいった。 「私、貴方を見て全部思い出したの、貴方と私は元々同じ家に住んでいたわ、貴方がきっとこのあいだまでいたであろうお屋敷に。でも父さんと母さんはすぐに離婚してしまい、私は母さんに引き取られてどこか遠くに引っ越したわ。」 「待って!母さんは病死したんじゃないの?父さんはそういって・・。」 「それは生きてるとわかるときっと貴方は会いたがるだろうと思って父さんが嘘ついたのね。しかしやがて母さんは以上な美貌から魔女だと言われ初めて最後まで否定した母さんは処刑されたわ・・、そして私も捕まりそうになって逃げたの、必死でね。」 「んで、この山奥で親に死なれて呆然としていた僕とレン兄さんが傷だらけのイヴを見つけたんだ。」 アミが間に入って言った。 「そんな・・母さんまで魔女狩りで・・。」 言葉を失って布団を握り締めた。 「大変だったぜー、イヴを抱えて警察や魔女を信じていたキチガイ共を振り切るの。」 「そうそう、そのあと何を聞いてもイヴったら泣くばっかりだからよっぽど怖い目にあったんだろうなって思ってもう触れないことにしたんだよね。」 「その後、イヴは何もかも忘れてしまってたから俺たちは兄弟って嘘を教えて暮らし始めて今にいたるというわけ。」 「「でもまさか・・私に兄弟が居たなんて・・」」 エマとイヴがはもった。 「おお、流石双子綺麗にはもった。」 レンが冷やかしっぽくいった。 「もう!やめてよにいさ・・そっか、兄さんじゃなかったんだよね。」 イヴが作り笑顔でいった。 「何言ってんだよー、血は繋がってなくても俺たち兄弟だろ?」 レンが平然と言った。 「レン兄さん・・。」 「そうそう、もちろんっ君もねv」 アミがエマを見て言った。 「あ、・・ありがとう。」 エマが照れくさそうに言った。 「人よ、神が愛してやまない人間よ、神を信じよ、さすればすべての罪を許されよう。 人よ、正義を愛せ、悪を憎め、正義こそが真実なり。人よ、人は人を憎んではいけない、罪を憎め。 人よ人を裁くな、罪を裁け。全ての罪人への裁きは人がするものではない、神がするものだ。神を信じよ、悪を憎め・・・。」 薄暗い教会に教主が一人聖書を音読している。 キリスト像の前には一人の少女が真剣にお祈りをしていた。 「今日も熱心ですね、マティン君。」 「ああ、教主様、私はとんでもない罪を犯してしまいました・・!」 マティンが突然立ち上がって教主に言った。 「ほぅ・・どんでもない罪とは?」 教主は少しも動揺せずに聞きかえした。 「今、人間の一番の敵であり、最も憎むべきある魔女を・・魔女をかくまってしまったのです。」 とたんに教主の顔色が青ざめていき、大声で言う。 「なんと!そのような恐ろしい罪を犯してしまったというのか!」 「教主様・・私の・・わたくしのお母様の病気は・・悪魔の・・魔女の所為なのでしょう?」 マティンは瞳に涙をたくさん溜めて教主に聞いた。 「ええ、この世の全ての病気は悪魔と契約した魔女の呪いによるものです。」 教主が感情を押さえつけるような口調で言った。興奮した所為か息切れしている。 「教主さま・・わたくしはなんという親不孝ものでしょう・・、親を呪った魔女をかくまうだなんて・・どうすれば・・どうすればお母様の病気は治るのです!?その為なら私はなんだってします!」 マティンは自分が疑われない為にキリスト教になったが教主の話を聞いているうちに本当にキリストを信じるようになってしまったらしい。 「つまり・・君はこの前逃げた魔女は君が逃がしたというのですか?」 教主は最初の落ち着きを取り戻して言った。 「・・はい、でも一緒に居たメイドは関係ありません!」 「・・・成る程、君は優しい。」 「あぁ・・教主様・・私はいったいどうすれば・・・。」 マティンがそう言って泣き崩れてしまった。 「ふむ、ならばいい手がありますよ。」 「教主様!それは一体なんですか!?」 マティンは教主にすがるように飛びついた。 「それは・・」 「それは?」 「貴方が逃がしてしまった魔女を見つけて、その場で裁きを行うことです。」 「裁き・・・つまり処刑・・・ですか?私が・・。」 マティンの顔が少し青ざめた。 「嫌かね、ならば君の母親は呪いでどんどん弱ってしまい最後は・・・。」 「わ、わかりました!でも私は魔女が逃げた場所を知りません・・。」 「マティン君。」 「はい?」 教主はアーメンのポーズをして言った。 「全ては神のお告げに・・。」 今度は優しい微笑を浮かべて言った。 「は、はい!わかりました。」 そう言ってマティンはまたキリスト像の前でお祈りのポーズを取った。 そんなマティンを見て教主は満足気に教会を後にした。 午前12時40分。 「・・・って、感動の双子ちゃんの再会は終わったところで俺等4人、これからどうする?」 レンが暫く黙っていた4人の沈黙を破って言った。 「エマの此処までのいきさつはとりあえず聞いたし・・・。」 イヴをエマのほうを見て聞いた。 「でも凄いわよね、あてもなく東に進んでいたら此処にたどりつくなんて・・。」 「私も本当におどろいたのよ、まさか双子の妹に会えるなんて・・。」 レンもアミも横で頷いていた。 「でもさ、まさか大人になるまで盗みをしながら暮らすってのは無理な話だよなぁ・・。」 アミが苦笑しながら言った。 3人も認めたくはないが事実なので黙っていた。 「私・・、父さんを助けたい・・。」 エマが呟いた。 「父さんって無実なのに刑務所に入れられてるっていう?」 アミがエマのほうを見て聞く。 「ええ。」 エマが強調するように返事した。 「エマのお父さんってことは私のお父さんでもあるのよね、私も会いたいな・・。」 イヴが下を向いて言った。 表情が暗いのはどうせ無理だろうと思っているからだ。 「う〜ん・・・僕等子供だしまさか乗り込んで助け出すなんて無理だよねぇ・・。」 アミが冗談交じりに言った。 「私達はずっとここに住んでいたけど、エマなら魔女狩りの状況、もっとよくわかるんじゃない?」 イヴがエマに聞いた。 「私も最近知ったからよくわからないけど・・、魔女だと人を決めているのはあの村では教会の教主だと此処に来る前に聞いたわ。」 「へえ・・・その教主、怪しいな。」 レンが微笑を浮かべて言った。 「何がだい?兄さん。」 アミが不思議に思って聞く。 「エマ、魔女になって裁判で死刑になった人達ってどんな人が多い?」 レンが意味深にエマに聞いた。 「え、私は見た人は未亡人とか一人暮らしとか・・・皆善良そうな普通の人よ。」 エマが意味がわからないがとりあえず答えた。 「極力家族が居ない人で・・、その人達結構裕福だろ?」 「・・・?そうね、服装から見て結構・・・、でもそれが何?」 エマが聞き返した。 「兄さん!もしかして・・。」 アミが間に入って言った。イヴとエマはまだクエスチョンマークがついた 表情だ。 「「どうしたの?」」 2人が被って聞いた。 「だからさ、一人身の死刑になった人の財産とかはどこに行くと思う?」 アミが自慢気に2人に行った。 「・・・あっ!そうか!」 イヴが手をポンと叩いた。 「・・・そうよね、家族が居ない人、もしくは居ても同じく魔女呼ばわりで裁判・・。」 エマが落ち着いた口調で言う。 「財産は教会に行くんだよ!」 アミが大声で言った。 「でも教会は魔女狩りで結構お金入ってる筈なのに村の治安はちっともよくなってないし、魔女魔女ばっかりで犯罪取締りは警察もうといし・・・。」 エマがまだ不審そうに言った。 「だからー!財産は教会の奴等が個人的に頂いているんだよ、きっと。」 イヴが力強く言った。 「じゃぁ私を捕まえようとしたのも私から屋敷を奪う為・・?」 エマが眉間にシワを寄せて言った。 「でもそんなことがわかったところで俺等に何ができるんだ・・。」 レンがしゃがみこんで言った。 その言葉を聞いた3人とも黙り込んだ。 「・・・教会にさ・・。」 アミが口を開いた 「「「?」」」 3人とも顔を上げてアミを見つめた。 「今夜、教会に行ってさ・・、教主に全部吐かせたらどうだろう?」 アミが下を向いたまま自分に聞いてるような口調で言った。 「バーカ、教主が簡単に吐くかよ、ましてや俺等が行ったってとんで火に居る夏の虫!無駄無駄。」 レンが偉そうに言った。 「ふーん、じゃぁ兄さんはずっとこのまんま盗みで暮らしていくつもり?」 アミがレンを睨みつけながら言う。 「なっ・・それは俺も嫌だけど・・他に方法が・・。」 レンが口ごもった。 「ふーん、他にこの馬鹿げた魔女狩りを終わらせる方法・・兄さんは何か思いついた?」 アミがさらに責めるように言う。 「・・・・わかったよ、行ってもいいよ、でもイヴとエマは・・?」 レンがイヴ達の顔を頼る見た。イヴとエマは笑顔で頷いていた。 「・・はぁ、どいつもこいつも・・・。」 レンがため息を漏らして片手で頭を抱えた。