CALL ME (ホッシー作) 最近、メールをする事が多い。つい1ヶ月前まではメールは来ないし送らない方だった。 それが春休みに入り、暇でしょうがなくなり何気なくメールを送ってみたのがきっかけだ。 中学の時。好きだった人と一時期気まずい関係になったんだけど、 高校一年で彼女はベースを弾くことになって そのベースは俺の方が先に始めているという事で俺に教わりに来た。 教わりに来たといってもその人のバンド関連で遠まわしな感じに頼まれたんだけど・・・。 そのおかげで今では「一緒にいて楽しい、面白い」存在に俺はいつの間にか なっていた。 それで、その子とメールをする事が多くなっていった。 聞く事によると彼女には彼氏はいるらしいし、 俺は会った時に メールしてていいんかよ って言ったが、 君は面白いんだ と返る。 そして、俺と二人きりになる事が多くて 男と二人だぜ?彼氏心配しないん? と聞いてみても、  へーきへーき とそういう答えしか返ってこない。 その後に言った言葉で俺はまた彼女に惚れてしまったんだ。 「君は優しいね。ありがとー。」 別に惚れたくて惚れた訳じゃない。 これを言った瞬間にあの時と同じ鼓動の音がして彼女が凄く可愛く思えてきて今から抱きしめたい衝動になったからだ。 まるで酒でも飲んで酔った感じだ。俺は彼女に酔ってしまったんだ。それからずっと黙って彼女を見ていた。 すぐに彼女は気づいて どうしたの? って聞いてくるけど俺は なんでもないよ って返した。 無理やり笑顔をつくって鼓動を抑えようとしたけど、見るたびに惚けてきて彼女に はまってしまう。 弦を抑える左指のひとつひとつ・・・真剣に弾いている姿・・・時折見せる素敵な笑顔・・・。 また、好きになった。二回も好きになるということは俺は彼女の事・・真剣に好きになってしまったんだろうな。 あくびをしていたら彼女はいきなり胸にパンチしてきた。えい!って。 そして彼女は俺に聞いてきた。 「今さ〜、彼女いるん?いそうなんだよね〜。聞きたい!いたら私失礼だしさ。」 今頃、彼女はどうして俺に聞くのだろうか。 それに、彼女には彼氏がいるからこっちの方だって失礼だろう。 「昔はいたけど、今はフリーだ。レッチリのフリーを目指してるからね。」 なんて俺は孤独な人なんでしょー。 そんな事を言ってにかっと笑ってみせた。 「それ、洋楽知ってる人にしか通じない冗談だよー あは!」 やっぱ君は面白いよ。楽しい楽しい。 彼女も笑った。すると、彼女の携帯が鳴った。 「・・・・メールだ。」 部屋がシン・・・となった。メールの打つ音だけがこの部屋に響いていた。 昔もこういう事がよくあった。いや、こっちの方がよくあった。中学の時に彼女と二人でいる時はずっと静かだった。 ・・・・気まずいのに、避けあっていたのになんで二人きりになる事があったんだっけ? 今は思い出せない。そんな大した事じゃなかったんだろう。だから思い出せないんだ。 だけど、今のこの部屋の雰囲気はメールを打つ音がどんどん頭の・・いや、海の中に全部飲みこまれていく感じだ。 その音がどんどん大きくなっていって・・・俺はぼーっと彼女を見ていた。 「ふぅ・・・ごめんごめん!」 彼女が不意にこっちを見てきたから一瞬びくっとした。 だけど、彼女は気づかなかったみたいでどんどん話しかけてくる。 「んで、その昔の彼女って何さ?ねぇねぇ教えてよー。」 どうせ隠したってこの子は聞くまでこの問いをやめない。 二年間気まずい関係でほとんど性格を忘れかけていた彼女の性格を今、やっと分析できた。気がする。 三年前ぐらいはまだ仲がよかった。その頃とこれっぽっちも中身は変わってない。 優しくて明るくて強そうに見えるけど、本当は繊細で弱い。そして何よりも面白い事が好き。 ずっと何も答えない俺を見て彼女は「ねぇねぇー」ってどんどんエスカレートしていく。 俺は溜息と一緒に喋りだした。 「・・・他校の人でさ。超可愛いんだ。・・・二人とも一目惚れでもう付き合う運命って感じだったよ。」 「いやぁ〜、別れた理由は?」 「・・・喧嘩。」 ふっと昔の彼女の顔を思い浮かべてその時の事を思い出した。 何が原因で喧嘩になったのかは覚えてないけど、喧嘩して別れたのはやはり後味が悪いものだ。 今でも思いだしただけで胸にずきずきとくる。 「・・・ごめん。調子にのりすぎた。」 彼女は俺の顔に手を近づけた。俺はぎょっとしていたに違いない。 しかし、彼女の手は目の下の所で親指をつけて何かをふいている動作をしただけだった。 「泣かしちゃってごめん。」 どうやら、涙がでていたようだった。 「いや、いいよ。昔の事だし。」 すぐに笑顔に戻した。泣いていた目で笑って・・とても不自然だ。 「でも、その彼女は幸せだよ。今だって彼女の為に涙を流したんじゃん。本当に彼女は幸せな彼をもったね。」 俺はすぐに否定したけど、彼女は優しく笑って 彼女は幸せだよ って返した。 「その涙を・・私も彼に流してほしい。」 彼女は少しうつむいた。 俺の胸の鼓動がどんどん大きくなっていった。 これは違う変化・・悔しい時と同じ感じの鼓動。だけど、これはそれとは明らかに違う鼓動。 寂しいんだ。悲しいんだ。だけどどうしようもできない。彼女には愛しい人がいるから。 俺にも昔いたように、彼女には今 愛しい人が心の中にずっといるから。 どんなに俺と二人きりになろうがメールをしようが彼女の心の中にはその愛しい人がずっといるんだ。 俺はそこには入れない・・・・。 「君は良い人だよ。面白いし楽しいし、私の好みぴったしなんだ。」 「あ〜はぃはぃ。彼氏にべた惚れさん。」 「なにーそれー!?」 「だって、私も彼に私の為に涙を流して欲しいわっていう感じの事を言って、まったく彼氏がうらやましいよ。  こんなに惚れられてる彼女なんてマヂで幸せだぜ。・・・それに、俺だってあんたみたいな人が好みだよ。」 遠まわしに好きって言ってるぞって俺は はっと気がついた。 また中学の時の二の舞か・・・と思ったけど、別にすぐに笑って否定すれば大丈夫。という自信はあった。 だけど、そんな心配は全然意味はなかった。 「はは、好み同士が恋人になるとは限らないんだね。面白いね。人って。」 そう言いながらベースを弾きだした。 俺はその動く指を見ていた。小さくて可愛い指。つめも綺麗だ。 「分からないよ。これからなるかもしれないじゃん。」 「・・・え?」 「・・・・おい、そこ違う。こうだってば。」 「あ、うん。」 俺は今度こそ遠まわしに言ってやった。彼女も感づいているけど、多分気づかないふりをするだろう。 だって、今の彼女には俺が必要なんだから。彼女のライブまでに何曲かまだ教えてないものがたくさんあるから。 だから彼女は俺と気まずい関係にはなりたくないはずだ。 ふと、YOSHII LOVINSONのCALL MEを思いだした。 今の俺にはぴったりだなって思った。彼女が俺を必要としている。・・・いつか、この曲を教えてみようと思った。