寄居警察生活安全課(戦場のギタリスト作) 「今日、学生が薬物取締法違反で補導されました」 こんなニュースが今日も流れ、補導された少年が何人も来た。 僕はとある警察署の生活安全課で働いている。 今年で勤務5年になるが、万引きはもちろん薬物・飲酒・喫煙などで補導された学生をごまんと見てきた。 そんな事をしている輩に呆れはしたが、困るのはその依存性である。 薬物が依存してしまうと、まず少年院では壁を引っ掻き回して猿みたいに暴れまわる。 他の奴らは反省してじっとしているのに、彼、もしくは彼女らは薬物・アルコールが無くてはいられず幻覚を見てしまうのだ。 事が起きたのはその年のことだった。 今日は薬物取締法違反で補導された女学生が取調べにやってきた。 まぁいつもの事ながらもじっくりと事情を聞いた。 彼女は極普通の高校生だったらしい。 しかし、親のプレッシャー、近所の期待等から大学受験に不安を感じていたらしい。 「受験、不安だなぁ・・・」 「なら、これなってみなよ」 渡されたのは、適量の薬物だったらしい。 「こんなことしたらまずいよ」 最初は断ったそうだ。 「大丈夫だよ。みんなやってるよ?」 「これくらい大丈夫だよ」 奨められるままに薬物を飲んでしまった時にはもう遅かった。 麻薬の道に入ってしまったのである。 もちろん薬物には依存があり、やはり飲まずに入られなくなったらしい。 それを買うためにはどんな手段も使った。 しかしその途中パトロール隊につかまったのである。 両親は泣いた。 娘を良く見てやれなかったこと、自分達のふがいなさを強く悔やんだ。 「ここだよ」 僕が案内したところは少年院である。 いくら乞われても許すわけにはいかない。 両親には定期的に面会を許した。 「×××、具合は悪くない?ちゃんと食べてる?」 「大丈夫だよ、うるさいなぁ」 面会の後、彼女は文にこう綴った。 〈お父さん、お母さん、ごめんなさい。 本当はすごく嬉しかった。 もう絶対に麻薬なんか乱用しない。 これまでのことを消しゴムで消せたらどんなに楽かな・・・> 誰にでも心の弱さはある。 それを利用することがどれだけ罪で、どれだけ悲惨か人は分かっているのだろうか。 僕は心から立ち直って欲しいと思う。できれば。 やがて彼女は退院した。 これで 立ち直ってくれればなぁと思いながら去った。 しかし悲報が来たのはその半年後のことだった。 彼女は今、後遺症の幻覚に襲われているらしい。 僕は急いで彼女の家に行った。 ピンポーン 「お邪魔します」 「あぁ、はいどうぞ」 1分経過。 「本題に入ります」 「えーと、自然再燃(フラッシュバックとも言う)でしたっけ?」 自然再燃とは、薬物を止めて治ったかに見られても、ちょっとした生活の不安から幻覚を起こしてしまう現象のことだ。 「はい」 僕は少し歯切れが悪かった。 「うーん・・・僕はそっちの人間じゃないからなぁ・・・」 「とりあえず、部屋へどうぞ」 ガチャ 僕は彼女の部屋へ入った。 「!」 しかし部屋には誰もいなかった。 テーブルには携帯電話、それにカセットテープが少し。 テレビは点いたままだった。 「あ」 僕は携帯電話に不思議なメモを見つけた。 「お母さん、メモを見つけましたよ。読んでみましょう。」 <父兄、それと 警察署の方々へ ごめんなさい> メモにはそれだけが入力してあった。 「・・・」 僕は黙って電話をテーブルに置くと、 「何も出来なかったな」 こう呟き、頬にこぼれる涙を隠した。 「・・・うぅ」 夕方。もう日が暮れる頃。 「神田さん、今日はありがとうございました」 「いえ、当然ですよ」 僕はそう言い帰ろうとした。 が、少し考えた後、再び戻ってこう言った。 「お母さん、『あたりまえ』と言う詩を知っていますか? 作者は 人が皆持っている当たり前を持っていることは幸せなこと。 だが、何故人はその幸せを喜ばないのだろう。 手があり、足があり、声が出て音が聞こえて食べることが出来る。 泣き、笑い、叫ぶことも出来る。 その大切さを知っているのは当たり前を失った人だけ。 と言う思いを詩にぶつけています。 彼女は、当たり前の大切さを知ったのでしょう」 その言葉に母親は心を打たれた。 そして、 「この事を皆さんに伝えましょう!」 と言った。 「・・・えぇ!やらせて下さい」 早速両親の話のもと、原稿が出来た。 この話をネット上で公開すると、大きな反響を呼び、文書化された。 今でもこの本は全国で読まれ、読者に感動を与えている。 END