MY DIARY(加藤 林檎作) 自分の生活を、文にして残す方法。  その1つに、日記というものがある。  佐藤、奈津美。  私の、名前。  1992年生まれ、13歳。  私の、生まれた年と、年齢。  明日香村、第1中学校。  私の、通う学校。  ベッドから起き上がった私の手元においてあった、私のものと思しき日記。  そこから分かったことは、今のところこれだけだ。 「奈津美・・・」  ベッドの傍らで、心配そうに見守る女性。 「私が分かる?」  誰だろう、この人・・・  正直、全く思い出せない。  そもそも、私はなぜ病院のベッドで寝ているのかすら分からない。 「私は、あなたの母親。お願い奈津美、私を思い出して!」  ハハオヤ・・・?  私は、日記のページをめくる。 (11月、16日。『今日はお母さんと、バドミントンをした』って書いてある・・・) 「お母さん・・・?」  私は女性の顔を覗き込む。 「奈津美!よかった・・・」  お母さんとドアの脇に立つ男性(父親だと思われる)の表情が明るくなった。 「あなた、階段から落ちて意識不明になっていたのよ。その上、記憶喪失まで・・・」  すると私の病室に、1人の男子が入ってきた。 「佐藤さん・・・」  彼は茶髪の少年で、年は私と同じくらいだ。 「意識、戻ったんだね。よかった」  正直、私はこの人の存在を覚えていなかった。  彼は、誰だろう・・・? 「坂田啓二くん。あなたのクラスメイトよ」  お母さんがあわてて言う。 「佐藤さんがこんなになっちゃったの、僕も責任あるんじゃないかと思って。それで、先生に病院の場所聞いて、ここまで来たんだ」  坂田くんは、私に花束を差し出した。 「ありがとう・・・」  私は、日記で彼のデータを調べることにした。 (12月24日。『明日は、絶対に坂田君に告白しよう。もう逃げたくはない』・・・?どういうこと?」  坂田君に、告白? 「ごめん・・・。僕、少し言い過ぎた。佐藤さん、それで放心・・・・・・しちゃったんだよ、ね?』  彼は少し言いづらそうに行った。 「あ・・・」  私の心の中に、数々の思い出がよみがえる。  そして、その思い出からウェビングされて、さらに多くの記憶が、私の胸にあふれてきた。  坂田、啓二くん。  私はずっと彼が好きで、つい最近、告白したんだ。  あれは、小学校5年生の春。 「初めまして、坂田啓二です。」  私のクラスに、1人の転入生が入ってきた。  「佐藤さん、給食運ぼう」 給食の時間。坂田くんは、とても熱心に働いてくれた。 「坂田君、えらいね」  私は感心した。 「ありがとう。でも僕、まだ知らないこといっぱいあるから、色々教えてね。」  私は、彼の謙虚さに惹かれた。  「坂田!」  彼は、クラスメイトとすぐに打ち解けていった。  そのため、彼の周りには必ず誰かがいた。  私は、彼と二人きりになれるときがなくて、いつまでも告白できなかった。  そして、今年のクリスマス。 「ごめん。僕、そういうのには興味ないんだ」  振られた。前置きもなく、きっぱり坂田君に私は振られた。  失恋した私は、ぼんやりしていて階段から落下したのだった。  「私、少しずつ思い出してるかも・・・」 「佐藤さん!」 「ありがとう、坂田君。本当に・・・」  お父さんが、泣きながら坂田君に礼を言う。  坂田くんは、照れくさそうに笑った。  私の日記。  これは、私に奇跡を与えてくれたような気がする。  私は、嬉しさこの上なくて、日記を強く抱きしめていた。