聖なる夜に






 日頃から不夜城の如く街はネオンで煌めいているが、今はそれを上回っている。街中の建物のみならず街路樹にまでイルミネーションで鮮やかに飾り付けられ、幻想的な光に包まれていた。
 彩られた街の雰囲気に誘われたか人々も週が始まったばかりというのに皆一様に浮ついた表情を浮かべている。師走を迎えても忙しそうな顔をして働いている者は少なく、イルミネーションももう見飽きた。そして、今日も空振りな予感。
 「おう、姉ちゃん。一人かい?」
 急に声をかけられてそちらに顔を向けると、冴えないオッサンが一人立っていた。顔がやや赤く紅潮して目の焦点がややズレており、そして―――隠し様のないくらいに漂って鼻につく強烈なアルコール臭。
 私が待っているのはこんな酔っ払いではない。私が欲している物を持っている者か、私の持っている物を欲している人。この二択に絞られる。区切りのない、人が居る限り呼吸を続ける不夜城のような繁華街にこそ最も手間なく探せると思ったが……どうやら今日はつくづく運がないらしい。
 えぇまぁと曖昧にお茶を濁して退散してくれることを望んだが、酔っ払いのオッサンは私の煮え切らない態度にハタと手を打った。他人の気持ちを斟酌することを知らない、世の中で一番嫌われるタイプの人間。自分の価値観を相手に押し付け、自分本位に物事を捉えるので余計に迷惑だ。
 「大変やな」と口では同情しているような言葉を吐くが、その目は微かに笑っていた。二つ三つ上辺だけの慰めの言葉をかけた後に「実はそんな姉ちゃんに良い話があるで」と羽織ったパーカーの内ポケットをゴソゴソと探って何かを取り出した。やたら目に痛い金色に輝いている小さな龍の飾りがユラユラと揺れている。一目見ただけで安物だと分かるくらいの細工で、値打ちがあるものとは到底思えない。
 「実はコレ龍神様ストラップ言うて、身に着けているだけで御利益を授かれる凄いモノなんや」と聞かれてもないのにペラペラと熱く語りだした。街行く人からは不審と奇妙が入り混じった視線をこちらに投げかけながら足早に通り過ぎていく。その刺さるような眼で見てくる人に叫びたかった。『勘違いしないで欲しい、私は被害者なんだ』と。
 こんな酒の臭いをプンプンさせたオッサンなんか三秒あれば叩き伏せられるが、騒ぎを起こすと後々面倒なことになるので自重する(尤も、今現在も厄介事に巻き込まれている真っ最中ではあるが)。かと言ってこちらの雰囲気に察してくれる気配は一向に見えない。話を右から左に流しているのも知らずに手前勝手なセールストークを一通り終えるや「いつもなら五十万するけど今なら四割引の三十万!さらに姉ちゃんベッピンさんやからさらにプライスダウンして半額の二十五万!どや?こんなチャンスなかなかないで?」と迫ってくる始末。
 ……もう、限界。
 完璧な笑顔を作ってから端的に一言。
 「消えて」
 するとアルコールで真っ赤に色づいていた顔がみるみる内に白くなり、もごもごと言葉にならない何かを呟くと慌しくその場から立ち去っていった。これで当分は悪い虫が寄ってこないだろうが、これまでのやりとりのせいで悪目立ちし過ぎた。今夜はもう店仕舞いするしかないようだ。
 「災難だったな」
 一息つくと壁にもたれかけながら声をかけてきた人間がいた。ハンチング帽を被った中年の男性で、その顔には幾つも皺が深く刻まれていた。先程まで付きまとっていた苦労知らずのツルツルのオッサンとは明らかに対照的な、風格を感じさせる面持ち。世間話をする態で話を続けた。
 「近頃はああいう変なヤツも増えてきている。困ったもんだ」
 懐からタバコの箱を取り出して一本を口に銜える。その慣れた手つきは役者のような振る舞いで実に板についている。
 「絡まれているのが分かっているなら声をかけてきても良かったじゃない」
 「何を言っているんだ。ワシが出て行かなくても勝手に追い払っただろ。それにお前さんが誰かに助けを求めるような性格か?」
 上着のポケットを探るが見つからない様子。火の点いたライターを差し出すと片手で軽く拝んでからタバコに火を移す。先端が闇の中でぽっかりと朱く灯り、静かに細く息を吐くと白煙が宙へと浮かび、やがて暗闇へと消えていった。
 隣の男はただの人ではない。赤井という名前の男で、警察の刑事だ。毎晩のように繁華街に出没しており、いつしか顔見知りの間柄になっていた。法に触れない限りはこちらの仕事に干渉しないという一見すると脆い関係ではあるが、変に強権を振りかざすこともなく一線を画して接してくれるので実にありがたい。
 「危害を加えるように見えなかったら放置しといたが、もう少し続くようだったら間に入るつもりだったぞ。『こんな怖いヤツにちょっかいをかけるのはやめとけ』と、な」
 歯に衣着せぬ物言いには答えず静かに足を踏み出した。今晩は無駄話が少し過ぎたようだ。
 「リン」
 背中から名前を呼ばれる。私の名前を知っているのはこの街で生業を立てている多くの人の中でもほんの一握りしか居ない。
 「気をつけろ。あまり変なことに首を突っ込み過ぎると痛い目に遭うぞ」
 言われなくても分かりきったことではあるが、その声は真剣そのものだった。赤井も決して無能ではなく闇の社会で生き残るだけの嗅覚を持ち合わせている。しかも警察という独自の網もあるし、刑事の勘がそう告げているのだろう。
 その何を指しているのか分からない忠告に腕を上げて応えるだjで、雑踏へ身を投じた。人垣の中を泳ぐように抜けて街を出た頃には、その場で起きた些細な揉め事は人々の頭からすっかり消え去っていた。
 今夜はクリスマスイブ。皆それぞれに聖なる夜の雰囲気に酔いしれていた―――





   《 聖なる夜に 》





 静寂に包まれた中を街頭に導かれながら進み、住処として借りているアパートまで辿り着いた。部屋の小窓から明かりが漏れているがリンは気にすることなくポケットから鍵を取り出して鍵を開ける。
 直後、部屋の中から駆け寄ってくる音が耳に入ったと思うと、緑色の髪をした小さな子どもが胸の中に飛び込んできた。
 「お帰りなさい!リンお姉様!」
 元気な声と可愛らしい笑顔で出迎えた少女と目線が合った。この明るい子がこうして迎えてくれると一日の疲れが瞬く間に吹き飛んでしまいそうだ。
 彼女の名前は茜。“お姉様”と私のことを呼んでいるけれど血縁関係は一切ない。ちょっと事情があって私が預かっているのだが、共に生活していく内にすっかり慕われてしまった。
 「ただいま、茜」
 玄関まで来てくれた茜に返事をすると、美味しそうな匂いが漂ってきた。この香りは……シチューか。夜風に晒されて冷え切った体を温めるには丁度いい。それに茜は家事全般が得意で料理の方もなかなかの腕前だ。部屋に視線を向けると色紙で作ったチェーンが飾り付けられていたり、小さなクリスマスツリーまで置かれている(元々そんな物が部屋にあった訳ではないので恐らく手先が器用な茜が作ったのだろう)。昨日まで“スタイリッシュ”とは名ばかりの殺風景な姿とは明らかに変わっていた。
 「何て言ったって今日はクリスマスイブですから!!」
 刹那、ブーツを脱ぐ途中の手が止まる。楽しさが込められた何気ない一言で、脳裏の片隅に追いやられていたことが鮮明に思い出された。
 ―――そうだった、今夜はイブだった
 出かける前に茜から帰りにクリスマスケーキを買って帰るように頼まれていたのだ。念を押して何度も何度も告げられ、そんなに信頼がないのかと半分落ち込んで仕事に向かったが、案の定やらかしてしまった。我ながらどうも巷のイベント事には疎い。
 日々の変化に乏しい仕事をしていることもあるが、そうした行事とは疎遠な暮らしを送ってきた体質は簡単に抜けるものではない。クリスマスのイルミネーションも十二月の初旬から見ている身としては目が慣れきっていて今一つ実感が湧いてこない。
 今から買いに出かけようかと考えたが時計の針は既に午後九時を過ぎている。洋菓子店は軒並み店仕舞いしている時間帯だ。体裁を整えるために少し小振りでもいいからコンビニへ駆け込むことも一瞬頭を過ぎったが、夜も更けてきたイブ当日にケーキが売れ残っているとは到底考えられない。万事休す、だ。
 これ程に取り返しのつかないミスをやらかしたのはいつ以来だろうか。ふと顔を上げるとひどく気落ちした茜の姿が目に入る。さっきまで太陽の下に咲くヒマワリのように輝いていたことを思えば急転直下の変貌ぶりである。どれだけ楽しみにしていたかはテーブルに並んだ料理や飾り付けられた部屋を一目見れば察せられ、その分だけ自分の犯した失敗の大きさを痛感させられる。私は茜の期待を裏切る行為をしてしまったのだ。
 この局面を打開する手段は一つしかなかった。
 「ごめん、茜!お詫びに一つ何でも言う事聞くから!」
 正座してさらに頭を下げて手を合わせる。大の大人が子どもに許しを請う格好になったが茜に許される為なら形振りなんて構っていられない。土下座で済むなら何度でも頭を垂れる。
 するとそれまで光を失っていた瞳に少しだけ輝きが戻った。じっと私の姿を見つめ、ぽつりと呟いた。
 「……何でも、良いですか?」
 「えぇ。今日は特別!」
 私の返事を受けると茜は考え込む仕草を見せた。決して私の方も冗談や比喩で口にした訳でなく、本気で茜のお願いを叶えるつもりだった。明日一日下僕になれと言われればどんな命令にも逆らわないし、欲しい物をお願いされれば全財産を叩いても買い求めるだろう。
 暫くの間、沈黙の時間が流れた。逡巡した末に茜は決心したらしく切り出してきた。
 「……じゃあ、お兄ちゃんとお姉様が会った時の話をしてほしい、です」
 どんな難問を突きつけられるかと戦々恐々していた私の予想とは裏返しに、なんとも拍子抜けしたお願いだった。
 茜の言うお兄ちゃん―――私がそう呼ぶのは些か恥ずかしいので“彼”と呼ぶことにする―――とは、現在プロ野球の大神ホッパーズに所属している現役のプロ野球選手で、茜を私に託した張本人である。私と彼は茜と出会うずっと前からの知り合いで、茜と会うまでは仕事の上で付き合うビジネスパートナー的な存在だった。
 「……いいの?大した話じゃないけど」
 拒否権が私にはないとは言え「それでいいの?」と確認せずにいられなかった。彼との出会いは聞かれればいつだって話したし、出会い自体も特に面白みもない。どうして茜がそんなことを聞きたがっているのか不思議でたまらなかった。
 すると茜はふっと表情を和らげて話し始めた。
 「リンお姉様やお兄ちゃんは茜のことを知っていますが、茜はリンお姉様やお兄ちゃんのことを知らないです。なんだか一人だけ仲間外れにされているような気がしてイヤでしたし、不公平だと思うこともありました。でも、二人が会わなかったら今の茜は居ないと考えると特別な気がして、聞けなかったです。……なので、今夜はせっかくのイブなので勇気を出して聞いてみることにしました」
 言い終わってから「怒ってますか?」と上目遣いで私の顔色を伺う。そんな訳ないでしょ、と返事の代わりに茜の頭に手を乗せてナデナデする。
 指摘されて始めて気がついた。私と彼からすれば大したことのない過去かも知れないが、茜から見れば特別に映っていてもおかしくない。その聖域に自分が踏み込んで良いか尻込みするのも当然考えられることだ。
 ……イブは特別、か。
 人並みの幸せを味わったこともないし、そうした生活とは一切無縁とばかり思っていた。世間とズレた生き方をこれまで送ってきたが、今日初めて一般的な幸せに触れられた気がした。そういう意味で茜には感謝だ。
 「……分かったわ。でも、ちょっと待って」
 「?どうかしたですか?」
 「大したことではないの。コーヒーが飲みたい気分になったから」
 やかんに水を入れて火をつけたコンロにかける。お湯が沸くまでの間に棚からインスタントコーヒーの瓶を取り出してきて、きつく締まった蓋を開けるとコーヒーの爽やかな香りが広がり鼻腔をくすぐる。
 スプーンで一匙焦げ茶色の粉末をマグカップへ入れると、茜も「私も飲みたいです」と自分のマグカップを寄せてきた。最近になって私の真似かコーヒーを嗜むようになったけれど、独特の苦味にまだ舌が慣れてないみたいで砂糖をインスタントコーヒーの倍以上入れた後に冷蔵庫から牛乳を取り出してきた。大人なレディは皆コーヒーを上品に飲んでいると信じているみたいが、まだまだお子様のようね。
 元々過去は振り返らない主義で昔のことを他人に話す機会なんて殆どない。記憶を一つ一つ紐解いていくのもそうだが、どう話せばいいか分からず時間を稼ぎたかった。それに……今から話すには気持ちがセンチメンタルに片寄り過ぎている。無意識の内に苦味のあるものを欲したのかも知れない。



 * * * * *



 先にも触れたが私は人並みの幸せな生活を経験したことがない。物心つく前には両親を亡くし、人より早く一人で生きていかなければならなかった。元手も支援もない私が活路を見出したのは情報屋という仕事だった。
 ヒトという人種は知りたがりな生き物だ。見たこと、聞いたこと、触れたこと、起きたこと。それらを経験として蓄え、さらに文字や言語を用いて他者へ伝達する能力もある。しかも自分の経験にないことを予測して、新たな知識を得ようとする向上心も併せ持っている。そうした観点から捉えれば、知りたいことが凝縮されている“情報”は貴重な存在だ。
 決して触れることも見ることも出来ないが、どれだけ多く持っていても嵩張ることもないし無駄になることがない。時間が経てば食物と一緒で鮮度が落ちて価値が下がるが、場合によっては過去の些細な情報が後々になって重要な鍵へと化けることもある。頭一つあれば事足りる、無から大金を生み出せる錬金術に私は虜になった。
 情報屋という仕事はデスクワークに特化した姿を想像する人が多いだろう。半分正解ではあるが、実情は少し異なる。世の中に出回っている情報の大半は外にある。室内に篭ってばかり居ると最新の情報を見落としたり勘が鈍るリスクが生じるので、基本的には外に出て情報を拾うことにしている。大企業など人的にも金銭的にも余裕がある所では収集と分析を完全に分担しているけど。
 あと誤解されていることと言えば情報に対する“値段”に驚く人が多いことだ。元がタダだから提示した金額に「こんなにするのか!?」と思うのだろう。しかし、こちらも“職業”としてやっている自負はあるので持っている情報を安売りすることは出来ない。求められた物の量と質に応じて適切な価格を付けているだけだ。元がタダだからと言って、それを得るまで経費が嵩むこともあれば命の危険に晒されることも少なくないからだ。よく言うじゃない、“タダより高いモノはない”って。
 二十四時間三百六十五日、片時も気を緩めることを許されないハードな仕事だけど、私にはそう感じることはあまりない。世の中に散らばる大きさも模様も違うパズルのピースをかき集め、己の頭脳を駆使して一枚の絵に仕上げていく工程は非常にやりがいを感じているし面白いとさえ思っている。

 独学で情報屋としてのスキルを身につけて看板を掲げたものの、フリーの新米情報屋に仕事を依頼してくる奇特な人はそうそう現れない。一日中暇を持て余した私はそんな状況を少しでも見返そうと日夜街に張り付いて、情報の種を拾おうと努力した。
 毎日毎晩同じ場所に立って観察していると、ちょっとしたことに気付くようになった。家路につくスーツ姿のサラリーマンが毎日同じ時刻を同じペースで歩いているとか、一見すると普通の通行人のように捉えられるが仕草や挙動で運び屋だと見抜いたり。こちらも客引きの女性と間違われるが、相手も何かしらの仕事をしている人だと気付いているに違いない。
 そんなある日のことだった。
 いつも厳つい表情で一棟のビルを睨んでいる男の人が目に付いた。現場に着いてから離れるまで一瞬も視線を外さず、ピリピリとした緊張感を全く隠すことなく出し続けていれば、誰だって目を惹く。嫌でも分かるのに、本人は馬鹿正直に職務をやり遂げることしか考えてない様子なので周囲から浮いていることに全く気付いていない。
 一心不乱で仕事に没頭している彼に、私は親切に教えてあげることにした。
 スルスルと泳ぐように彼の元へ歩み寄り、背後に立つがまだ気付いていない。いっそ清々しさを感じる程の間抜けな姿である。
 「ちょっと、そこのアナタ」
 いきなり背中から声をかけられたことに相当驚いたらしく、ギョッと度肝を抜かれた顔をして振り返ってきた。本当に気付いていなかったのかと思うと妙におかしな気分になった。
 標的を逃すまいと張り詰めた緊張感も一旦は解れ、よく見ると意外に澄んだ瞳をしていた。あどけなさが残る顔立ちで人懐っこい印象さえ受ける。
 だが、それも不意を突かれた一瞬だけで、すぐに元の顔に戻ってしまった。
 「何ですか?オレは今忙しいですから後にしてもらえませんか?」
 「釈迦に説法かも知れないけれど、刑事が制服着て犯罪者を捜しているのと一緒よ、今のアナタ」
 制服を着た警官が街頭に立っているのは、周囲に警察官の存在を知らせることにより犯罪の抑制効果があるためだと言われている。逆に逃げている相手に自分の身分を晒け出すのは明らかに本末転倒だ。皮肉も込めて忠告してあげると、彼は素直に私の言葉を受け止めた様子であった。
 「毎晩同じ時間にそんな怖い顔して監視してたら、相手も警戒してネズミも穴から出てこないわ」
 少しおせっかいだったかも知れないな、と思ったが彼は私の厚意に頭を下げた。
 「君は一体……?」
 売り込みも含めお手製の名刺を差し出す。受け取った彼は職業欄を覗いて「情報屋?」と首を傾げたので簡単に説明する。報酬と引き換えに欲しい情報を渡す仕事と聞いて感心した様子で私の顔を見てきた。
 私の素性を明かしたことで彼の警戒心も大分解け、懐から手帳を開いてこちらに向けてきた。警察の関係者かと最初は睨んでいたが、予想は少し違っていた。
 「CCR……?」
 情報を扱うことで生計を立てている私でも聞いたことのない組織の名前だった。裏社会の主要な組織の名称は一通り頭に入れてあったつもりだったが、彼は慣れた様子で話し始めた。
 「最近、違法にサイボーグ化した人による犯罪が増えてきたのは知っているよね?」
 「えぇ、まぁ」
 語尾を濁すような答え方になったのは、確証を掴んでいる情報ではないからだ。
 近年急速にサイボーグ技術が進歩したことにより、常人では到底有り得ない強度やパワーを発揮したり体内に機械を埋め込む事例が報告されている。しかし、それは正規の手続きで発表されたものではない。犯罪が起きて初めて認知されたのだ。
 おまけに厄介なことにサイボーグ技術を受けた者と受けてない者の見分けが非常に難しいのだ。判別がつかないことは、既に多くの犯罪予備軍が一般社会に紛れ込んでいる可能性が高い。
 日夜増え続ける凶悪なサイボーグ犯罪を取り締まる為の対策として政府が非公式に立ち上げたのがCCRという組織、ということらしい。
 俄かには信じられない話ではあった。情報屋のネットワークに引っかかることなく、そんな組織が存在していたという事実を。
 「ちょっと待って―――やっと、出てきた」
 建物から体格のいい強面の男性が現れた。一見すると普通に怖いお兄さんだが、彼の追っている人物ということはつまり……
 と、反対側で張り込んでいた彼の仲間と思しき黒スーツの男が近づいていくと、その気配を察知した強面の男性がこちらに向かって駆け出して―――って何コレ!?まるで陸上のスプリンター選手並の速さで走ってくる。これが肉体を強化したサイボーグなのか!
 「危ない!避けて!」
 逃げ道の直線上に人が居ることも構わず男性は猪突猛進の勢いで突っ込んでくる。普通の女性だったらスピードと体格の衝撃で大ケガは免れないだろう。
 ―――私が並の女性であるならば、の話だが。
 向かってきた男性の腕を掴むと、相手の懐へ瞬時に潜り込んで勢いそのままに背負い込む。男性の体は宙で一回転した後に背中から地面へと叩きつけられた。
 「情報屋だからってナメてもらったら困るんですけど?」
 幼い頃から自分の身は自分で守らなければならなかったので、喧嘩は滅法強かった。具体的には暴走族を一個隊壊滅させる程度に。自分で身につけた独学の体術ではあるが、どの流派の達人と戦っても互角に遣り合えるだけの実力を備えていた。暴漢一人を軽く捻れなければ情報屋は務まらない。
 「……っ、このクソアマ!」
 受身を取れずそのまま地面に落下してかなりの衝撃を受けたはずだが、すぐさま起き上がって―――銃口をこちらへ向けてきた。吹き飛ばした為に間合いを詰めるには距離がありすぎるし、丸腰なので対処したくても手が出せない。せめてナイフ一本あれば状況を変えられるのだが、生憎今はそんな物を持ってない。
 直後、乾いた発砲音が背後からしたと思うと、暴漢の構えていた拳銃が弾き飛ばされた。何が起きたのか分からないが、降って湧いたチャンスに体が自然に動いた。すかさず距離を詰めて痺れている腕を後ろへ捩じ上げ、足を掬って巨体を再び地面に着かせた。背中へ捻られた腕の痛みに悶絶している内に彼の仲間が寄って来て暴漢に手錠をかけて連行していった。
 「大丈夫でしたか?」
 駆け寄ってきたのは彼だった。恐らく撃ったのも彼だろうが、咄嗟の出来事で至近距離には私が居る状況下でもしっかりと正確に敵の銃だけを狙い撃ちにした上に、銃を抜いて引き金を引くまで時間もそんなにかかってない。射撃の腕前はかなりのものと推察される。
 「えぇ、怪我はないわ」
 「今回は手配中の犯人が無事に逮捕出来たから良かったですが、違法にサイボーグ化している者達は並大抵のことでは倒れないですから、あまり危険なことに首を突っ込まない方が賢明ですよ」
 「まー、これはこれはありがたいご忠告、どうもありがとうございました」
 権高な物言いが癪に障り、言葉遣いが荒くなる。戦闘直後で気が昂ぶっていたこともあるが、明らかに私と同じ新米なのに上から目線で言われると腹が立つ。
 しかし相手は非公式とは言え背後には政府という大きな後ろ盾がある。下手に逆らうのは上策ではない。用も済んだので去ろうとすると、彼から声がかかった。
 「待て」
 まだ何か言い足りないことでもあるのか、と思って振り返ると彼は名刺を差し出してきた。
 「情報屋なら独自のネットワークを持っているだろ。もし何かあったら連絡してくれ。どんな些細なことでも構わない」
 相変わらずの話し方ではあるが、人との繋がりこそ情報の基本なので黙って受け取る。すると彼は礼も言わずにスタスタと現場から立ち去っていった。
 ―――これが長い付き合いとなる、彼との出会いであった。



 * * * * *



 「へぇ〜、でも初対面なのに仲が悪そうだったのは驚きですね」
 ミルクコーヒーを啜りながら茜は意外そうな表情を浮かべて呟いた。
 「お互いに新米同士だったから『相手にナメられたらいけない』って気持ちが先走ってピリピリしていたんだと思う。でも、何回か仕事のやりとりをしていく内に気持ちに余裕が出来てきて『意地を張るような関係じゃないな』って気付いていったわ」
 顧客を次々と獲得するようになり、相手との信頼関係を築くことの大切さを学んだ。今の彼は情報の対価をしっかり支払ってくれるし、裏切る危険性も皆無なので情報屋としても一人の人間としても安心出来る存在だ。茜を預かる一件も彼の人柄と性格を分かっていたからこそ引き受けたのだ。
 「リンお姉様は最初から何でも出来たんですね」
 「そういう訳でもないわ。私だって人間だから失敗したことだってあるし」
 「あ、その話聞いてみたいです」
 「え〜……」
 話が思ってもない方向に転がり出したので渋る素振りを見せるが、茜の方を見ると既に聞く体勢で待ち構えている。自分の失敗談なんて恥ずかしいだけで大して面白くもないし、どうして好き好んで話さないといけないの?と思う。しかし、今日の私は既に大失態を犯しているという引け目を感じていたし、どんな話が出てくるかワクワクしている茜の落胆した顔を再び見たくはなかった。……とことん、茜には甘いと自覚はしているが、直せる見込みは立ってない。
 「はいはい分かったわ。今夜だけよ」
 純粋に喜ぶ茜。時計をチラリと睨むが、まだ寝るには早い時間だ。参ったな、と啜ったコーヒーの味は先程よりもほんのり苦味が増したような気がした。



 * * * * *



 しくじった、と後悔した時には手遅れだった。
 法律の制限に違反するサイボーグパーツが大量に運び込まれているという情報を掴んだ私は、まず彼に連絡を取った。彼が所属する組織ではその情報を把握していなかったらしく、上司と相談の上で折り返し連絡すると言って電話は切れた。あちらにも情報網はあるだろうが、フリーで活動していた方が手に入りやすい場合も時として存在する。
 さらに情報を得ようと現場を監視し始めた矢先、突如スタンガンを当てられてしまった。反撃する暇も与えられず意識を失ってしまった。
 次に目が覚めた時には、気を失った場所とは異なる薄暗い部屋の中だった。電流を受けただけで体に痛みはないものの、手錠をかけられて拘束された状態なので動こうにも動けなかった。
 「おう、気ぃ付いたか」
 目の前に影が差す。厳つい顔の男が私の顔を覗き込んできた。反応がないと分かると髪を乱暴に掴んでグイと顔を無理矢理上げさせられる。
 なかなかの別嬪だな。アンタに言われなくても知っている、と内心で反撥する。
 周囲を見渡すと、木箱がそこかしこに積まれている。天井が高いせいか照明が少ないせいか室内は薄暗い。高い所に窓はついているが、外から光が入ってこなくて真っ黒なのは今が夜だからか。
 少ない情報の中から辿り着いた結論は、ここがどこかの倉庫だということくらいしか分からない。
 「コソコソと嗅ぎ回っていたみたいだが、タダで済むとは思うなよ?」
 別の男が脅しを含んだ声で話しかけてくる。どうやら私は迂闊に動きすぎたようだ。
 怪しい集団がサイボーグ手術に使われると思われるパーツを倉庫へ運び込んでいる。そういう噂を耳にした私は近所に張り込んで実際の現場を確認し、噂が真実であることを突き止めた。違法サイボーグの情報を欲している彼にコンタクトを取った上で、さらに継続して調査を進めることにした。その際に「オレらのリストに載ってない団体が絡んでいるから何が起きるか分からない。気をつけろ」と電話口の彼から忠告を受けていたが……内偵する内に勘付かれて不意打ちを喰らってしまうとは。
 「警察っぽくないけど、どうなんスかね?」
 「さぁな。落とし前つけてもらいながら、じっくりと吐かせればいい」
 言いながら唇を舌で舐める。どう落とし前をつけるか容易に見当がつき、卑しい笑みを浮かべて見つめる姿に虫唾が走る。
 今の危機的な状況を冷静に分析しても、無事に脱出出来る可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
 内偵調査をすることを伝えたのは彼のみで、しかも電話の話しぶりだと報告の上で様子見が妥当な線だろう。どこの馬の骨か分からない奴の情報を鵜呑みに踏み込むなんてリスクがあまりにも大きすぎる。私でも慎重に行動するわ。
 そして私の方も見通しが甘かった。相手の警戒が緩かったのでさらに詳しい情報を得ようと近づいた結果がこの様である。隙を見せていただけに罠にかかってしまうとは我ながら情けない。
 救出も望めない絶望的な状況。これまでで一番のピンチであることに間違いない……そもそも、生きて還れるかも怪しいが。
 「へへへ。時間はたっぷりあるから、しっかりと楽しませてくれよ?子ネズミちゃん」
 懸命にもがくが、それも抵抗らしい抵抗にならず相手の興奮を掻き立てるスパイスにしかならない。クソっ、こんな奴等に好き勝手されるなんて!!
 私の服に汚らわしい男の指が触れた、その時だった。
 ―――ターン……
 一発の銃声。刹那、目の前に立っていた男の肩口から血が滲み、傷口を押さえて膝をついた。
 「何事だ!?」
 突然の銃声に取り乱す男達。そこへ続け様に発砲音が鳴る。ある者は身を伏せ、またある者は物陰に隠れるなど統制が取れておらず混乱ぶりが露呈する。
 どうやらこの場所には先程の男二人以外に三人の仲間が居ることが判明した。その中でリーダーらしいのは私に最初に話しかけてきた奴と見た。
 さらに火線が下る。角度から推察するに、建物の高度についている窓から撃っているようだ。
 「……このクソアマ!このままで終わると思ったら大間違いだぞ!!」
 上から降り注ぐ鉛玉を避けるために伏せていたリーダーの腕がこちらに向く―――その手に握られていたのは一丁の拳銃。思わぬ襲撃に逆上して私を道連れにするつもりか!?銃口が私の額を的確に捉えているが、拘束されているため避けたくても避けられない。
 すると建物の窓ガラスが割れ、破片が雨霰となって落ちてくる。それに混じって黒い影が降り立ったと思うと、拳銃を構えていたリーダーの腕を取り捩じ上げる。痛みに耐えかねて手にした銃を落とすと、あっという間の早業でもう片方の腕も掴んで手錠をかけた。
 直後、大量の人がなだれ込んできて、リーダー以外のメンバーは押し寄せる人の前に次々と捕縛されていき、あっけなく事件の幕は下ろされた。
 「大丈夫か、リン!?」
 目の前に立っている影が私の名前を呼ぶ。手錠の鍵を見つけてきて、手際よく腕にはめられた手錠を解いた。久しぶりに両手の自由が戻ったことで自分が生きていることを改めて噛み締めた。
 ガラスに勢いよく突っ込んだ為に服のあちこちは破れ小さな切り傷があったりするのに、自分のことはお構いなしに私のことばかり心配している。らしいと言えばらしい、か。
 飛び込んできたのは、やっぱり彼だった。違法サイボーグを取り締まる捜査官にしては血気に逸る一面もあるので危なっかしく思う事もあるが、そこがまた彼の魅力でもある。
 「えぇ、この通り無事よ」
 手錠がつけられた部分はまだ赤みを帯びているが、これも時間が経てば消えるだろう。むしろケガ人は貴方の方でしょ、と思ったが口には出さない。
 そういえば名前で呼ばれたのは初めてね、と思わぬ所で気が付いた。あくまで仕事上の関係ということで一線を画して接していたのに、軽々と超えてしまうなんて。それは迷惑とは感じず、何故か少し嬉しかった。

 私から情報を受けて監視を始めた矢先、内偵調査をしていた私が倉庫の中へ押し込められる姿を偶然目撃したらしい。
 すぐさま突入を上司に進言したが案の定様子見するという判断を下され、居ても立ってもいられなかった。彼の暴走に釣られるように捜査員も派遣することになった。
 窓から内部を伺っていた所で私が危ない目に遭いそうになり、衝動的に拳銃を抜いて発砲。文字通り事件解決に向けて火蓋が切られた、という訳だ。
 「しかし、一人で現場を見張るなんて無謀すぎるだろ」
 「後先考えずに突っ込む貴方こそ相当な無鉄砲よ」
 彼の背後から声がかかる。そこに立っていたのは短く刈り上げた銀髪の女性だった。佇まいや雰囲気から仕事の出来る人間だと分かる。
 「まぁいいじゃないか。違法サイボーグを扱っていた連中も一網打尽、人質も物証も無事で万々歳だろ」
 「そういうのを“結果オーライ”って言うのよ。失敗のリスクが大きい賭けに無理矢理付き合わされる身にもなってよね」
 銀髪の女性は言いたいことを全て吐き出すと、さっさと立ち去っていった。
 確かに彼女の言う通りだ。万事上手く転がったものの、彼も私も命を落としていたかも知れない。私の軽率な行動によって彼女達は迷惑を被ったのも事実だ。
 「……ごめんなさい、貴方にケガをさせてしまって」
 誰かに頭を下げるなんていつ以来になるだろうか。常に一人で行動するように生きてきたから記憶にない。にも関わらず、誤る言葉は自分でも驚くほどにスルリと滑り出てきた。
 「大丈夫。こういう仕事だから慣れているから。それよりも……どうしてこんなことをしたんだ」
 責める口調が傷心気味の心にチクチクと突き刺さる。
 彼のように組織に属していれば仲間の援護もあるから長期戦に持ち込めただろう。だが、何の後ろ盾もないフリーの情報屋には結果を出し続けなければ業界の中で生きていけない。時には多少のリスクを承知で仕事に臨まなければならないこともある。
 ここ最近、大きな成果が出てなくて焦りがあった。そんな中で掴んだ違法サイボーグに関する情報を耳にして、チャンスだとばかりに前のめりになってしまった。
 組織に入っている者にフリーで生きる辛さを説明してもなかなか理解してもらえない。口ごもっていると、沈黙に耐えかねた彼が口を開いた。
 「たまには頼ってもいいんだぞ?」
 その発せられた言葉があまりに予想外だったので、意味を呑み込めなかった。キョトンとする私を尻目に彼はさらに言葉を重ねる。
 「長い付き合いで互いのことは分かってるだろ?だったら時には連携して動くことも必要じゃないと思うが……それとも、オレは頼るに足る信用がないか?」
 問われて首を振る。頭が真っ白になった。
 今までそういう風に考えたことはなかった。情報と報酬をやりとりするだけの関係としか思っていなかった。だから協力なんて発想が一切持ってなく、相手は裏切らない信用があればいいとしか捉えてなかったのだ。
 ビジネスライクと思うかも知れないが、情報船は裏の戦争と時に呼ばれる程に熾烈を極める。関係の深い顧客とも一線を画すのが常識と頭から信じていた。
 彼は私からの返事に納得したような表情を浮かべた。
 「よし、決まりだ。困ったことがあったら連絡してくれ。出来る限り力になるから」
 それだけ言うと、彼は颯爽とその場を後にした。
 頼る、か……。
 これまで一人で生きなければならない次官を長く過ごしてきて、初めてそんな言葉をかけられた。どういう顔をすればいいか分からず俯くが、悪い気はしない。心に熱い何かがゆっくりと注がれていく感覚がして、心地が良かった。



 * * * * *



 「リンお姉様にもそんな過去があったんですね〜」
 感心したような表情をして茜は私の顔を見つめていた。コップの中は大分前に空になっている。
 敵に捕まった話をした際にはハラハラしながら話に聞き入っていた。状況に応じてコロコロと顔が変わるのは、見ていて楽しいものがある。
 戒めとして封印していた過去を話すのは恥ずかしくもあり躊躇いもあったが、こうして茜が喜んでくれるのならそれでいいと思えてくる。緊迫した状況を理解している点を考えると、見た目は幼くても立派な大人に近づいていることが分かる。
 思えば、彼と長い付き合いになったキッカケはあの事件があったからかも知れない。助けたことを恩に着せる態度を一切見せず、換わらず仕事のパートナーという立ち位置を守ってくれている。ただ、あの事件以降は心理的な距離が近くなったように感じる。具体的に言えば、困ったことがあったら依頼するくらいの関係になったかも?それが良いことか悪いことか分からないけれど……こうして茜と巡り会えたことは幸せだとはっきり言える。
 ふと時計に目をやると、既に日付を跨いでしまっていた。聖なる夜という特別な雰囲気に酔いしれて、つい夜更かしをしてしまった。
 「さ、茜。お話はこれでおしまい。夜も遅いから早く寝なさい。夢の中にいないとサンタも来ないわよ」
 さりげなく布団に入るように促したが、眠い目を擦りながら首を横に振った。こんな時間まで起きていることは滅多にないから無理をしているのは誰の目から見ても明らかだ。
 「プレゼントならもう貰いました。お兄ちゃんとお姉様、茜にとって大事な家族です!!」
 臆面もなく凄いことを口にするので聞いているこっちが逆に恥ずかしくなる。でも、とても嬉しかった。
 と、そこにドアノブが廻る音がした。扉を開けて入ってきたのは、茜が“お兄ちゃん”と呼んで慕っている彼であった。それに気付いた茜は私の時と同じように彼の元へ一直線に駆け寄っていき、その懐の中へと小さい体を預ける。
 「メリークリスマス、茜。遅くなってゴメンな」
 「ううん、いいんです。きっと来てくれると信じていました!」
 茜の視線が彼の手元に向けられる。彼の片腕は茜の体を包み込み、その反対の手には白い箱が握られていた。
 「今日はイブだったからみんなで食べようと思ってケーキを買ってきたんだ。ダブるかなと一瞬考えたけど、まぁいいかって。でもこんな時期だからあちこち探すことになったけど……」
 私と茜は思わず顔を見合わせた。まさかこういう形でケーキがやってくるなんて予想もしていなかった。
 ケーキを買ってきてくれたことに対して普段の倍以上に喜ぶ茜の姿に対してちょっと戸惑いを見せる彼。その様子を見ながら私は再びお湯を沸かすべく席を立った。
 不思議な縁で結ばれて繋がった一つの家族。小さな部屋を包み込む心地よい温かさに満たされながら、聖なる夜は静かに更けていくのであった―――





   fin


 パワポケ8のリンについて書いてみました。
 本来であれば『私の帰る場所』はこの作品の序章に当たるのですが、あまりにも内容が大きすぎたので別作品として切り離してみました。
 当然のことながら話の方はかなり繋がっています。もし宜しければ一読頂けるとより楽しめるかと思います。

 大まかなプロットは大体組み上がった段階でレポート用紙に書いていく、という形式を取りましたが、書いていて凄く楽しかったです。
 やっぱり直書きしたほうが筆の進みがいいですね〜。パソコンで打つよりも何倍も早い。

 苦戦したのはリンが監禁されている場面。
 筋は予め決まっていたのですが、文章が書けない書けない。戦闘シーンは脳内に浮かんだ映像を文字化すれば良いのですが、監禁されている場面は如何にすれば読んでいる人に伝わるか苦慮しました。
 少しでも臨場感を出せていればいいなぁ、と思っていたり。



 (2014.12.13. up.)

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