君の傍に居たい






 [ 君の傍に居たい ]




 君とは小学校以来の再会になった。
 生まれつき心臓に病を持つ私は小学生の時からずっと病院通いだった。そのためなかなか学校に行けなくて友達が少なかった。
 男の子も女の子もじっとしているよりも体を動かすことの方が好きな子が多い。心臓に負荷をかける運動はお医者さんから止められていたので仲間に入ることが出来なかった。
 いつも楽しく遊んでいる仲間達を外からじっと眺めるしかなかった。
 そんな中で、みんなの中心で一番楽しそうな笑顔を浮かべて元気良く動いていた君が輝いて映り、私は少し羨ましかった。
 いつか病気が治ったら、あの中に混じって、みんなと一緒に笑って過ごしたいなぁ。半分願望のような気持ちで、ただただみんなが活発に動いているのを見ていた。
 君は体の弱い私を気遣って、重たい物を持ってくれたり私の分まで頑張ってくれたりしてくれた。本当に君はあの頃から優しかった。
 心ない同級生から君はからかわれたりもしたけれど、そんなことを意に介さない強い精神力も持っていた。
 だからこそ余計に君のことを憧れの対象として見ていたのかも知れない。

 幼い頃からの夢は“プロ野球選手になること”だと、ずっと周囲に言ってきていた。そのために一生懸命努力していたことも知っている。
 それは高校生になっても変わっていなかった。
 この高校の野球部は評判が決して良くなく、真面目に練習している姿を見たことが無かった。でも君はグラウンドで一人でも真面目に練習していた。
 大会が終わって野球部が廃部寸前に追い込まれても、諦めることは無かった。
 周りの友達を野球部に誘い、顧問になってくれそうな先生に声をかけ、野球部を再建させようと懸命に動いていた。
 そんな君の熱意に負けて一人、また一人と野球部に入る生徒が増えてきた。顧問になってくれそうな先生も見つけてきたようだった。
 練習に参加する部員もだんだんと増えてきて、本格的な野球部のようになってきた。君はその先頭に立って率先してみんなを引っ張っていく。
 多分君の人柄に惹かれて、君の熱意を買って、君の根気に負けて、参加してくれたのだろうな。昔からみんなの真ん中に居たもの。
 その様子を私は遠くから眺めているだけ。見ているだけでも全く飽きない。むしろ自分のことのようで楽しかった。

 様々な困難を乗り越えて、高校球児達の夢である甲子園出場に手が届く位置まで到達することが出来た。
 けれど君はもっと先まで行けると私は心から信じている。甲子園に行くだけではなく、その先もずっと突き進んでいくだろうな。
 だから私はずっと君のことを見ていたい。君のすぐ傍で、君の活躍を見ていたい。
 もしも私が丈夫な体になったら、君のサポートをしたいな。入院することも多いしハードな仕事は出来ないからマネージャーにはなれないけれど。
 タコさんづくしのお弁当を作ってあげたり、挫けそうになった時に励ましの言葉をかけてあげたりすることなら私にも出来るかな。



 夏の大会が近付いてきた。君は今まで以上に練習に力を入れているのが私から見てもわかる。
 でも最近私の体も調子が悪い。発作の回数も夏が近付くにつれて多くなってきている。
 私の具合が悪いと君は「明日香、大丈夫か?」と優しく声をかけてきてくれる。私は君に心配をかけないように辛さを笑顔で見せないように努力するのが精一杯だ。
 もしかしたら大会を観に行けないかも知れない。そうなったら君の雄姿を近くで見られない。
 病室のテレビで観戦するのと、球場に行ってこの目で観戦するのとでは全然違う。臨場感も、高揚感も、緊張感も、ブラウン管を通って来ないから。
 どうせなら君の近くで、君の姿を見ていたい。



 願いが叶うならば、君の傍に居たい。
 そうすれば君の雄姿をずっと見続けることが出来るから。
 君はずっと私に勇気をくれた。沢山の物を君から貰った。
 おかげで素晴らしい時間を過ごすことが出来た。私のこれからの人生でも忘れることの出来ない、楽しい高校生活になった。
 だからこそ、いつか君にこのお礼をしたい。
 いつになるかわからないけれど、君の傍に居て君の手助けをしてあげたい。
 それまで君の隣は空けたままでいてね?


 初代パワポケの幼馴染、進藤明日香と主人公のお話。病弱な明日香を小さい頃から支えてきた主人公の優しさと、主人公の成長をずっと傍で見ていたいという明日香の想いを込めて。
 ふっと話の筋だけ浮かんで、あとは思いのままに書いてみました。いつものように細々とした話の筋があるわけではなく、ただ書きたいことだけを書いた作品になりました。……そのせいか私の作品としては異例の短さになりました。ショートショートの域ですよ、これは。

 多分これは恋心ではないと思う、多分。

 ※当作品はpixivで開催されていたパワポケコンテストに出品しました。

 (2011.06.20. up.)

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